Q 有給休暇(有休)が余っているのに、退職前に有給消化を拒否されたら?
転職先が決まり、入社日が2カ月ほど先なので20日分の有給休暇(有休)を消化して退職したいと考えています。退職を伝えた際に、残っている有休を取得したい旨を上司に伝えたのですが、拒否されました。有休の取得は諦めなければならないのでしょうか?(27歳/女性)
A 原則として、有給休暇(有休)は本人が指定した日に取れるものです。上司、会社と話し合いをして取得できるようにしましょう。
有給休暇(有休)は、「年次有給休暇」が正式名称で、入社後6カ月以上勤続し、出勤日の8割以上に出勤した社員に対して会社が与えなければならないものです。休んだ日は、通常の労働日の賃金など、就業規則で定められた賃金が支給されます。
原則として、社員が有休を取得したい日を申し出れば、会社は有休取得を認めなければならないことになっています。また、有休を取得するために休む理由を会社に伝える必要はありません。
そのため、社員が「●月●日~▲月▲日に有給休暇を取得したい」と希望しているにもかかわらず、会社が認めないのは、一部の例外を除き労働基準法違反に当たります。「病気のため会社を休むこと」は認め、「退職前に有休を消化するために会社を休むこと」は認めないなどと、「休む理由」によって有休の取得の可否を会社が決めることも違法です。
とはいえ、会社によっては、退職日が決まった社員が突然長期間の有休取得することで引継ぎ業務等に支障が生じることを理由に、そのような有休の取得を認めない場合もあると考えられます。そのため、退職日までに有休を消化したい場合は、会社の所定の手続に従って有休の取得を申請するとともに、退職日までの後任者への引き継ぎスケジュール等も具体的に提示し、会社の業務に支障が生じないことを示すことをおすすめします。
なお、万が一、直属の上司と話し合いをしても有休を取得できない場合は、直属の上司の上司や人事部に相談することをおすすめします。
その上で、後任者への引き継ぎなどで、まとまった有給休暇の取得がどうしても難しい場合は、有給休暇の買い上げの選択肢があることも踏まえて、会社に相談してみましょう。

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トラブルを防ぐ、有給休暇の取り方とは?
法律では、会社は社員が「この日に有休を取りたい」と請求したとおりに有休を与えなければならない、とされています。社員が有休を取得する日を決め、会社に請求する権利のことを「時季指定権」といいます。
しかし、社員が希望する日が、その会社にとって業務上最も忙しい日のうちの1日であるなど、請求された日に有休を取得されてしまうと事業の正常な運営を妨げる場合は、会社は社員が有休を取得する日を別の日に変更することができます。この権利のことを「時季変更権」といいます。
会社の「時季変更権」は、社員の「時季指定」がなされたのちに使うこととされています。あらかじめ上司から「●月▲日なら有休を取ってもいい」「▲月×日は有休を取得してはいけない」と指示することは、年休取得時期を計画的に定める計画年休の制度が設けられている場合を除き、認められません。
また、「時季変更権」は、「他の時季に年休を与える」可能性の存在が前提となります。退職日が決まっていて未消化の年休を一括して使う(時季指定する)場合、時季変更できる「別の日」がないときは、会社の時季変更権は認められず、有休の取得が承認されることが一般的です。
ここで扱った法律
有給休暇を取るタイミングについては労働基準法の第39条の5項に「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と定められています。
なお、労働基準法が改正され、2019年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
弁護士:藥師寺正典(やくしじ・まさのり)
中央大学大学院法務研究科修了。弁護士登録後、石嵜・山中総合法律事務所にて執務を開始し、現在弁護士法人第一法律事務所(東京事務所)所属。使用者側の人事労務管理のほか、民事・商事について、多岐の分野に対応。主著に『労働行政対応の法律実務』(中央経済社 共著)、『「働き方改革実行計画」を読む』(月刊人事労務実務のQ&A 2017年7月号 日本労務研究会 共著)など。