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連載【弁護士監修】知らなきゃ損する!転職と仕事の法律のQ&A

入社時の「身元保証書」「誓約書」とは? 保証人を家族以外に頼むことは可能ですか?

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Q 入社時の「身元保証書」「誓約書」とは? 保証人を家族以外に頼むことは可能ですか?

転職活動をして内定をもらい、入社することになりました。「身元保証書」「誓約書」の提出を求められたのですが、誰に依頼すべきか困っています。

新卒入社の際には父親に身元保証人になってもらったのですが、2年前に他界したため、依頼できなくなりました。

母は年金受給者、妻は専業主婦のため収入はありません。どんな人なら依頼できるか教えてください。(31歳男性)

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A 事情がある場合は、まずは会社に相談してみましょう。

会社が身元保証を求めるのには、大きく2つの目的があります。

1つは、入社する人が職場で協調性を持ち、同僚とトラブルを起こすことなく働くことができる人であることを、第三者から保証してもらう目的。2つ目は、これから入社する人が会社に何らかの損害を及ぼしてしまったときに、代わりに身元保証人が賠償することを約束してもらう目的です。

会社から渡された「身元保証書」に損害賠償について書かれていると、ついそちらに目が行ってしまいがちですが、どちらかというと、実は1つ目の目的のほうが会社にとって重要です。それまでの面談や本人の経歴等から「この人なら大丈夫」と判断できさえすれば、身元保証人を立てなくていいと会社が判断するケースもあります。

事情があって身元保証人が立てられないことで、ただちに内定が取り消しになることはまずありません。身元保証人を頼める人がいない場合や、誰に頼めばいいか分からない場合は、まずは会社に事情を説明して、どうすればいいか相談してみましょう。事情にもよりますが、基本的には柔軟に対応してくれるはずです。

また、誓約書は入社する本人が誓約するものですので、内容をよく確認した上で提出しましょう。

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身元保証の要・不要は会社の判断による

前提として、身元保証書の提出を義務づける法律はありません。ですから、それぞれの会社が、要・不要を判断しています。実際、入社時に身元保証書の提出を求めない会社も少なくありません。

入社時に身元保証書の提出を求める会社では、就業規則に入社時に必要な手続・書類の一つとして身元保証書について記されていることがほとんどです。そこに、どんな人を身元保証人として認めるかについても規定されています。

身元保証人は2人、「一人は親族、もう一人は独立して生計を立てている人」というような形で求められることが多いです。年金受給者は、ほかの収入の有無にもよりますが、一般的には経済的に独立していると判断されにくいでしょう。

身元保証人を頼める人がいない、あるいは頼める人が年金受給者しかいないような場合は、会社に相談してみることをお勧めします。そうすることで、内定を取り消されるのではないかと不安な方もいるかもしれませんが、会社は柔軟に対応してくれるはずです。

なお、就業規則に規定されている身元保証人の条件にかなっていれば、友人・知人に身元保証を頼むことは問題ありません。身元保証書は、会社と身元保証人との間の契約になりますので、両者が合意すれば成立します。

万が一損害賠償が認められた場合であっても、裁判例上、身元保証人に課せられる負担は、金額が限定されることがほとんどで、損害額の1~3割程度となることもあります。
なお、2020年4月以降に新たに締結される身元保証契約については、2020年4月1日施行の改正民法により、身元保証人の賠償責任について上限額(極度額)を定めなければ、身元保証契約自体が無効という扱いとなります。身元保証人の責任範囲は限定的に考えられる傾向にあり、身元保証人を求めない企業も以前より多くなっています。

「誓約書」は就業規則への同意を示すのが主な役割

「誓約書」は「身元保証書」とは目的が異なります。「誓約書」の目的は、基本的には、入社する人が会社の就業規則に同意したことを確認するためのものです。

誓約書の内容は会社によって異なりますが、就業規則の内容に同意させることのほかに、会社の営業秘密等を第三者に漏洩しないことや、業務上の理由等により入社者の個人情報を第三者に提供する場合があることについてあらかじめ同意を得ることもあります。

実際のところ入社時の「誓約書」に同意しないというケースは考えにくいものの、念のため内容をよく確認し、その内容が合理的なものかどうか確認した上で提出しましょう。

ここで扱った法律

労働契約を結ぶ際の身元保証については、「身元保証に関する法律」に定められています。
この法律は、主に身元保証人を保護することを目的としたもので、身元保証人に過重な責任を負わせないよう、制限が設けられています。

たとえば、保証の期間を定めない場合は、有効期間は3年間、期間を定める場合も、最大で5年を超えることはできないとされています。また、身元保証人が業務上不適任である場合や、問題を起こす恐れがあると分かったとき、会社は身元保証人に通知をしなければならず、身元保証人はその通知を受けた時点で将来に向かって契約を解除できることになっています。そして、裁判所は、会社側の不注意や、身元保証するに至った経緯、その他の事情を考慮し、身元保証人の責任範囲を制限することができます。

こうしたことから、万が一損害賠償が必要な問題が発生してしまった場合であっても、突然身元保証人が多額の賠償金を支払わなければならないケースは生じにくいといえます。

また、2020年4月1日に改正民法が施行され、個人根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じないとされています(民法465条の2第2項)。身元保証契約も、個人根保証契約の一種ですから,極度額(上限額)を定めないと、効力を生じません。
そのため、身元保証契約を締結する場合には、上限額の定めが必須となります。この意味でも、身元保証人の責任範囲は制限されることになります。

家族以外の人に身元保証人を依頼する場合は、保証の範囲や、場合によっては契約を解除できることを説明した上で了承してもらうのがよいでしょう。

弁護士:藥師寺正典(やくしじ・まさのり)

弁護士法人第一法律事務所 パートナー(社員弁護士)。経営法曹会議会員。企業の顧問業務をはじめ、労働審判・労働訴訟などの係争案件や、ユニオンなどとの団体交渉対応、労災対応、M&Aにおける労務デューデリジェンス対応など、経営者側での労働法務案件を数多く手掛ける。

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