働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
「母性健康管理指導事項連絡カード」で職場とのコミュニケーションを円滑に
更新日:2021年5月31日
働きながら子どもを産む女性が増える一方で、環境や制度が整っていない職場では、妊婦本人から「負担を減らしたい」といった希望を言い出しにくい状況があります。そこで、十分な配慮が得られにくい環境で働く妊婦をサポートするツールの一つとして利用したいのが、「母性健康管理指導事項連絡カード」です。職場とのコミュニケーションが円滑になり、働く妊婦が安心して子どもを産み・育てられるためのこの仕組みを、ぜひ活用しましょう。
母性健康管理指導事項連絡カードとは
母性健康管理指導事項連絡カードは、妊娠中および出産後の女性従業員が、病院やクリニックから指導を受けた内容を適切に事業主に伝達するための書類で、通称「母健連絡カード」と呼ばれています。
妊娠中および出産後は身体にさまざまな変化があり、仕事に影響が出るほか、「長時間の作業や立ち仕事など、業務内容によっては母体やおなかの赤ちゃんの負担になるのでは?」と不安に感じることもあるでしょう。母健連絡カードは、そのような働く妊婦が安心して仕事を続けられるよう設けられました。
母健連絡カードが今後ますます活用されることにより、医師と事業主と女性従業員の三者が連携して妊娠中の健康管理意識を高め、切迫流産や早産、さらには妊娠中に起こるさまざまな症状を予防する効果も期待されています。
健康診査の結果、「仕事の制限」「時間の短縮」「休業」など、指導を受けた内容を会社に伝えるための書類です。必要事項を医師または助産師に記入してもらい、勤務先に提出しましょう。母性健康管理指導事項連絡カードは厚生労働省ホームページからダウンロードできます。母子健康手帳にも様式が記載されているので、それをコピーして使うこともできます。
働く妊婦の抱えるさまざまな悩みを解決
女性の社会進出が進み、妊娠中および出産後も仕事を続ける女性が増えています。妊娠・出産は女性にとって大きなライフイベントであり、身体的な変化や症状、精神面での不安などさまざまな場面で仕事に影響が出ることもあります。
一方で、職場が男性ばかりで前例がないなど、母体健康管理の取り組みについて社内規定や制度が整っていない企業もまだまだ多く、妊娠や出産への理解が進んでいない現状もあります。このような状況では、身体的、精神的に仕事がつらくても言い出しにくく、またその症状を妊婦本人から正しく事業者側に伝えることができず、「本人の都合」と解釈されてしまう恐れもあります。
母健連絡カードを職場とのコミュニケーションツールとして活用することで、事業主に正しく身体の状況を伝えることができ、働く妊婦が抱える身体的・心理的な悩みを解決し、負担を和らげることができるのです。
どこで手に入る?
母健連絡カードの様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。また、各自治体で発行される母子健康手帳の多くに同様の様式が記載または添付されているので、これをコピーして使用することも可能です。
厚生労働省「母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について」
発行に料金はかかる?
母健連絡カードの発行には料金がかかります。費用はかかりつけの病院やクリニックによって異なるため、事前に電話で問い合わせをするか、ホームページに料金一覧表がないか確認しましょう。
通常の診断書よりも安価で発行するよう国から病院側に指導されているため、一般的には高額な費用が請求されることはないとされています。
母健連絡カードの使い方
ここからは、母健連絡カードの使い方とカードの提出による効力について紹介します。
まず、妊娠中または出産後の女性従業員が健康診断などを受診します。
次にその診断結果をもとに、主治医などが通勤の緩和や勤務時間の短縮などの措置が必要と判断した場合、必要な事項を母健連絡カードに記載して女性従業員に渡します。
そして、女性従業員は必要事項が記載された母健連絡カードを事業主に提出し、措置の申し出を行います。
提出を受けた事業主は、記載内容に応じて適切な措置を講じなければなりません。
具体的な措置についての効力は以下のとおりです。
母健連絡カードの措置に関する効力
【妊娠中の通勤緩和の措置】
通勤ラッシュ時の満員電車は身重な妊婦にとって大きな負担になりますが、母健連絡カードの提出により、混雑時間帯を避けた時差出勤や車通勤などの通勤手段の改善を会社に相談できます。また、業務内容や本人の体調に合わせて在宅勤務の検討なども行うことができます。
いずれの場合でも、具体的な措置については勤務先とよく話し合って決めます。
【勤務時間の短縮や休憩の措置】
妊婦の体力や健康状態には個人差があり、人によっては妊娠前よりも疲れやすくなったり体力が低下したりすることがあります。そのため、母健連絡カードの記載により勤務時間を短縮することや、休憩時間を延ばす、回数を増やす、時間帯を変更するなどの負担軽減を行えます。
【負担の大きい作業の制限】
立ち仕事や外回りの営業、重量物を取り扱う作業などの妊娠中に負担が大きい業務や、長時間作業などのストレスが発生しやすい業務について、軽減や配置転換の見直しをしてもらうことができます。また、業務内容によっては在宅勤務やテレワークなど勤務スタイルについても検討してもらうことが可能です。
【休業】
妊娠初期にみられる重いつわりの症状がある場合や、中・後期にかけての切迫流産や切迫早産などの恐れがある場合には、自宅療養や入院などの休業が必要になることがあります。仕事への影響を考えると言い出しにくいですが、母健連絡カードに休業が必要な時期や症状を医師から記載してもらうことで、事業主に正しく状況を伝えることができ、安心して休めるようになるでしょう。母子ともに健康な状態で出産を迎えるため、無理は禁物です。
また、2020年5月7日からは、新型コロナウイルス感染症にかかわる心理的ストレスが母体やおなかの子どもに悪影響を及ぼすと主治医等に指導された場合にも、作業や出勤の制限など、事業主に必要な措置を行ってもらえるようになっています。
※本措置の適用期間は2021年1月31日まで延長
母健連絡カードの書き方
母健連絡カードには指導事項や措置の期間、特記など多くの項目がありますが、すべて医師が記載するため難しいことはありません。妊婦自身は、カード下部にある「指導事項を守るための措置申請書」の日付と署名部分のみ記載します。
母健連絡カードのよくある疑問
母健連絡カードを実際に活用する際に気になる疑問について解説します。
勤務先に提出する際に診断書は必要?
母健連絡カードは、妊娠中の女性従業員の健康診査の結果などをもとに、必要な措置について主治医などが指導事項を記入し、適切に事業主に伝えるためのツールです。病院で発行してもらう一般の傷病の診断書と同等に取り扱われる正式な証明書のため、別途診断書を提出する必要はありません。
母健連絡カードで休業を申請した場合、扱いは病気休暇になるの?
母健連絡カードで休業を申請した場合、必ず病気休暇扱いとなるわけではなく、扱いは勤務先によって異なります。厚生労働省委託「母性健康管理サイト」では、妊娠中の女性従業員が、自ら、勤務先の就業規則の病気休暇や母性健康管理の措置についてどのように定めているかを人事労務担当者に確認するよう勧めています。母健連絡カードの内容に基づき勤務先がどのように取り扱うかはその会社の規定により異なるため、きちんと相談することが大切です。
また、医師の指導による休業が「病気休暇」なのか否かについては一概には判断できないため、主治医には自分の身体がどのような状態かを確認することが大切です。一般的に、妊娠・出産そのものは「病気」ではなく「特別な健康状態」と考えられる一方で、身体状態が悪化して入院による治療や絶対安静が必要であれば「病気」という扱いにならざるを得ないと考えられており、病気の場合は、健康保険が適用されて診療や治療が行われます。
事業主が適切な配慮を行い、女性が無理することなく安心して子どもを産める環境づくりが進むことは、少子化対策にもつながります。働く妊婦と事業主の双方における円滑なコミュニケーションのためのツール「母健連絡カード」の活用が今後ますます期待されます。
監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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