働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
妊婦健診を定期的に受診して、健康管理を万全に
更新日:2022年1月31日
おなかの赤ちゃんと自分自身のために、妊婦健康診査(妊婦健診)はきちんと受けたいもの。でも、「仕事が忙しくてなかなか時間が取れない」という悩みを抱えて働く女性も少なくありません。そこで、仕事を続けながら母子の健康を守るために必要な妊婦健診の頻度や検査内容、また、覚えておきたい「通院休暇」についても説明します。
働くママの妊婦健診。頻度と内容は?
妊婦健診は、妊婦と赤ちゃんの健康チェックを行う健康診査です。妊婦が心身ともに健やかに、安心して妊娠期間を過ごせるように、また、健康な赤ちゃんを迎えられるように準備することを目的としており、定期的な受診が推奨されています。
おなかに赤ちゃんがいる妊婦は、食事や環境など、普段よりいっそう注意して日常生活を過ごさなければなりません。生活が一変して不安に感じていることや困っていることを、健診時に医師・助産師・看護師に相談することで、安心して生活を送れるようになるでしょう。
また、妊娠をきっかけに貧血や高血圧を発症したり、重い病気にかかったりする場合もあるため、健診で定期的なチェックを受けて早期に身体の変化に気づき、適切な治療を受けることが重要になります。
妊婦健診の頻度
働くママの悩みのひとつに、妊婦健診と仕事との両立があります。
妊産婦(妊娠中、および産後1年以内の女性)が勤務中に健康診査を受けに行くことは、男女雇用機会均等法で権利として認められています。
また、会社によっては通院休暇を定めており、申し出れば通院のための時間を確保できます。妊娠が分かったら、社内規定を確認して使用できる制度を把握しておきましょう。
妊婦健診は、時期や状況、健診機関によって回数と検査内容が異なりますが、厚生労働省は出産まで14回の受診を標準としています。
- ・妊娠初期~妊娠23週まで : 4週間に1回
- ・妊娠24週~妊娠35週まで : 2週間に1回
- ・妊娠36週~出産まで : 1週間に1回
1回当たりの時間
妊婦健診の回数は上述のとおりですが、出産予定日(41週以降)を過ぎると週2回以上になることもあります。待ち時間を含めた1回当たりの所要時間は平均で1時間弱、長くても2時間以内に収まることが多いようです。
14回受診するとなると、勤務場所の近くにある病院が最適なように思えます。しかし、里帰り出産や引っ越しを予定している場合には、健診先の病院が替わると後述する公的補助にも影響が及ぶため、後々のことをよく考えて決定しましょう。
妊婦健診の検査内容
妊婦健診では、問診・診察と体重、血圧、尿検査などの基本検査に加えて、食事や生活に関するアドバイスや妊娠・出産・育児に対する不安や悩みの相談に応じてもらえる保健指導が毎回受けられます。また、血液検査や超音波検査は、それぞれの期間に1回から数回、必要に応じて行われます。
妊娠期間ごとの検査項目の一例としては下記のようなものになります。原則としてガイドラインに従って検査を進めていきますが、市区町村の助成の違いや、お母さんや赤ちゃんの状況により変動することもあります。
【初期(妊娠初期~13週)】
初回健診の尿検査・超音波検査・内診で妊娠が判明したら、妊娠13週までは初期の妊婦健診となります。この期間には、血液・血圧、体重測定などのほか、赤ちゃんが正常に成長しているかを確認する経腹エコーや腹囲・子宮底長の測定を行います。また、この期間内に子宮頸がん健診が一度行われます。
【中期(妊娠16~27週)】
初期の健診と同じく血液・超音波検査のほか、妊娠糖尿病のリスクを判断するために糖負荷試験(GCT検査)※が行われます。
※自治体や母子の状況によっては、24~28週に行われる場合もある
【後期(妊娠28週から出産まで)】
35~37週前後※には、出生時に赤ちゃんが新生児GBS感染症に感染するのを防ぐためB群溶血性レンサ球菌検査が行われます。また、37週前後には、胎児心拍をモニタリングするためのNST(ノンストレステスト)も行われます。
※早産で出生時の感染リスクが懸念される場合、2回の検査が行われる場合もある
妊娠中に会社の健康診断は受けていい?
妊娠中の健康診断がおなかの赤ちゃんに悪い影響を与えてしまうのではと心配する人は多いでしょう。
一般的に、放射線を使用するX線撮影検査(レントゲン)やCT検査については、妊娠初期の4~8週目は念のため避けたほうがよいと考えられています。しかし、妊娠何週かにかかわらず、健康診断の窓口では必ず妊娠中であることを伝えた上で、これらの検査は避けるようにしましょう。そのほかの検査は基本的に赤ちゃんに影響はないため受健するようにしてください。
一方、妊婦健診やそのほかの診療場面で担当医から母体や胎児のためにこれらの検査を提案された場合は、リスクに対してメリットが高いと判断されているため、前向きに検討してよいでしょう。また、磁気を使用するMRIに関しては胎児への影響はないと考えられています。
妊婦健診にかかる費用
妊婦健診にどれくらいの費用がかかるのか把握するため、標準的な健診費用と公的機関による補助制度を見ていきましょう。
妊婦健康診査受診票を活用して費用を抑えよう
地域やクリニックによって多少差はありますが、妊婦健診にかかる費用は1回当たり約5,000円。出産までの標準的な受診目安が14回、さらに初診時には初診料が、健診以外の検査を行う場合は検査費用が追加されるため、合計で10万円前後を予定しておきましょう。
しかし、これだけの額になると工面も大変。そこで、公費で健診費用を一部負担してもらえる制度があります。
【妊婦健康診査費用補助】
妊娠が判明して居住している自治体で手続きを行うと、母子健康手帳を交付してもらえます。この際、妊婦健康診査費用補助券や妊婦健康診査受診票が同時に発行されます。
−補助の回数・費用
補助券や受診票が使用できるのは、基本的に居住している市区町村、または周辺の市区町村にある医療機関に限られます。最大で14回分、1回当たり4,000円や8,000円など、金額は異なります。助成費用が自治体によって異なるため、補助券や受診票の金額も自治体によって幅が生じています。また、基本健診以外に検査を行ったりして補助金の金額を超過した場合は、自費での負担になります。
−引っ越しをする場合
補助券や受診票の利用は居住地域および周辺地域のみに限られており、引っ越しなどでほかの都道府県に転出した場合は使用できなくなります。そのため、新たに住民登録をする市区町村で再度、交付手続きを行う必要があります。また、同一都道府県内の引っ越しでも、地域によっては利用ができない場合があるため、手続きの際は忘れずに確認しましょう。
−紛失してしまった場合
補助券や受診票は、基本的に再発行をしてもらえません。紛失してしまった場合は、受診後に払い戻しをする「償還払い制度」を利用しましょう。
【償還払い制度】
妊婦健診時、一時的に健診費用を全額支払い、あとで助成金の還付を受ける方法です。発行された補助券や受診票の使用ができない医療機関の場合、里帰り出産や引っ越しのタイミングなどでほかの都道府県の医療機関を受診した場合、また、妊婦健康診査費用補助券を紛失した際や、健診費用が補助券の助成金額より少なかった場合も利用できます。償還払い制度を利用する際は、まず各自治体の窓口に確認しましょう。
【医療費控除】
1月1日から12月31日までの1年間に医療費※が一定の金額を超えた場合、確定申告で所得控除を受けられます。家族全員の医療費が10万円を超えた場合や、所得が200万円未満で、1年間の医療費が所得の5%を超えた場合などが対象となります。
医療費控除は、病気やケガだけでなく妊婦健診費用、検査費用および通院のための交通費も対象に含まれます。領収書とともに通院費もメモしておくと、手続きの際に便利でしょう。
※保険金などで補てんされる金額は差し引く
妊婦健診に2週間に1回行けないとどうなる?
妊婦健診の頻度は妊娠中期から2週間ごとになりますが、2週間に1回行けないとどうなるのでしょうか。
健診を受けない、あるいは健診の頻度が落ちてしまうと、もしおなかの赤ちゃんの成長に異常があっても発見が遅れてしまい、その結果、お産の結果が悪くなる可能性もあります。
妊婦健診は、赤ちゃんのためだけでなくお母さんの体のためでもあります。貧血や妊娠糖尿病などは、母体の健康を損ねるだけでなく胎児の発育にも影響を与えてしまいます。ですから、妊娠中期の検査は、必ず2週間に1回行くようにしてください。
とはいえ、どうしても仕事が忙しく、2週間に1回病院に通えるか心配な人も多いでしょう。でも、そういったときのために「通院休暇」という制度があります。
妊婦健診に使える「通院休暇」とは
「通院休暇」とは、女性労働者が健康診査および保健指導を受けるために必要な時間を確保するための休暇のことです。妊娠中の女性、および産後1年以内の女性が会社に申請すれば、勤務中に健診に必要な時間が確保できることが、男女雇用機会均等法に定められています。
通院休暇の申請方法
社内規定に記載されていなくても利用できますが、その場合、有給・無給の区別、全休・半休・時間単位などの細かな取得内容は、事業主が決めることになります。
通院休暇は有給休暇を使う必要があるの?
妊婦健診は主治医が指定する日に行われることが多く、会社都合での変更が難しいケースもあります。また、会社側が有給休暇の使用を指示することもできません。ただし、自ら希望して有給休暇を取得することは可能です。
妊娠中は、赤ちゃんの発育の状態を知るために、定期的な健康診査を受けることが大切です。その際に利用できるのが「通院休暇」。会社の就業規則に記載されていなくても、申請すると病院へ行く時間を取ることができます。(男女雇用機会均等法第12条)
有給か無給かは会社の規則によります。
- [費用]
- 各自治体から妊婦健診補助券が配布されます。基本14回までの妊婦健康診査の一部を負担してくれます。
- [頻度]
-
- 妊娠23週まで/4週間に1回
- 妊娠24週~35週まで/2週間に1回
- 妊娠36週以後~出産まで/1週間に1回
-
上司から「妊婦健診を受けるなら、有給休暇を使って」と言われました…。
就業規則にも通院休暇があるのに、これってしょうがないの? - 通院休暇は、勤務時間内に妊婦健診の時間を確保するようにと、設けられています。会社側が一方的に年次有給休暇を使うように指示することは認められません。ただし、自ら希望して年次有給休暇を使い通院することはできます。
妊娠期間中を心身ともに健康に過ごして無事に出産を迎えるために、忙しくても仕事のスケジュールを調整して、きちんと妊婦健診を受けることが大切です。また、健診費用には公的機関の補助制度もあるため、妊娠が分かったら、お住まいの市区町村に妊娠届を出して制度を活用しましょう。
監修者:VISION PARTNER メンタルクリニック四谷 / 副院長 堤 多可弘(つつみ・たかひろ)
労働衛生コンサルタント/日本医師会認定産業医。弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長と、健康経営コンサルティング企業である株式会社Appdateの取締役を務めるとともに、首都圏および青森県の企業や行政機関の産業医を10カ所以上担当。
VISION PARTNER メンタルクリニック四谷(https://vision-partner.jp/)監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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