働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
妊娠を理由に退職を迫られたら?覚えておくべき正しい対処法
更新日:2021年5月31日
女性の社会進出が進み、妊娠しても仕事を続けることが当たり前となってきました。一方で、妊娠を理由に会社から退職を迫られるなど、働く妊婦が不利益な扱いを受けて泣き寝入りするケースもあります。そこで今回は、妊娠を理由に会社から退職を迫られた際の正しい対処法について解説します。
妊娠を理由とした解雇について
働く女性が妊娠や出産をしても仕事を継続するための法律や制度が見直され、働きやすい環境が整ってきました。
労働基準法では、働く妊婦に対する業務内容や労働時間などの制限への配慮が義務化。男女雇用機会均等法では、妊娠した女性従業員の母性健康管理のために、健康診査を受けるための時間の確保や医師からの指導事項を守るための措置を定めたほか、妊娠・出産等を理由とする不利益な取り扱いを禁止しています。
また、育児・介護休業法でも「妊娠・出産・育児を理由とした解雇や不利益な取り扱いは禁止」と明記されています。
以上の法律からも、事業主が女性従業員に対して妊娠を理由に解雇をすることは不当であり、一方的な解雇は無効になります。
妊娠は解雇や退職勧奨の理由にならない
事業主が、一方的な解雇ではなく「退職勧奨」という手段で退職を迫るケースもあります。退職勧奨とは、事業主が従業員に対して自ら退職するように促すことです。
本来、事業主は客観的かつ合理的な理由がない限り従業員を解雇することはできません。そのため、解雇するのではなく従業員に同意してもらい退職を選択させる、という退職勧奨の方法が選択されるのです。
男女雇用機会均等法では、「妊娠や出産は退職理由にはならず、また、妊娠中および出産後1年が経過していない労働者に行われた妊娠や出産を理由とした解雇も無効になる」ことが書かれています。このことから、解雇・退職勧奨のいずれの場合でも妊娠や出産は合理的な理由にならず、法律に抵触した行為といえます。
妊娠を理由とした減給・降格
男女雇用機会均等法では、「女性労働者の妊娠・出産等を理由とした解雇や不利益な取り扱いをしてはならない」旨が定められています。すなわち、解雇に加えて減給や降格などを行うことも不利益な取り扱いとみなされ禁止されているのです。
なお、「妊娠・出産等を理由に」という定義には、妊娠したことや出産したこと以外にも、産前・産後休業や育児休業の取得や母性健康管理措置を受けたこと、勤務時間の短縮や労働内容の変更を申請したことも含まれます。
不利益処分にはほかにも、正社員からパートタイム等の非正規雇用社員へ労働契約内容の変更を強要したり、就業環境を害する、不利益な自宅待機を命じたり配置変更を行ったりすることなども含まれます。
さらに、有期雇用契約者に対して契約の更新をしないことや、派遣社員について派遣先が受け入れを拒むことなども該当します。
妊娠・出産によって仕事がはかどらない・休みを取る・フレックスタイムで通勤するなどを理由に、解雇および不利益な扱いをすることは禁止されています。妊娠中・産後1年以内の解雇はこうした理由以外を会社が証明しない限り、無効となります。雇用契約の更新をしない、降格なども不利益な扱いになります。(男女雇用機会均等法第9条)
さらに、2017年1月から「事業主の“いわゆる”マタハラなどの防止措置」が義務化されました。これによって、解雇などの不利益な扱いの禁止に加えて、会社は妊娠・出産を理由とした嫌がらせなどについても防止する措置を講じなければならなくなりました。(男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法 改正)
妊娠を理由に解雇・不利益処分を受けた場合の正しい対処法
法律により禁止されているにもかかわらず妊娠を理由に解雇や不利益処分を受けた場合には、正しく対処する必要があります。
ここからは、不当に解雇を言い渡された場合や、自ら退職するように促す退職勧奨をされた際、また不利益処分を受けた場合の対処法について解説します。
もし解雇を言い渡されたら、同意する前(解雇の予告から退職までの間)に退職の日付や責任者名とともに解雇の理由を示した「解雇理由証明書」を発行※してもらい、不当な扱いの根拠となる証拠を集めましょう。
※労働基準法には「当該解雇の理由について解雇理由証明書の請求がなされたとき、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない」旨の記載がある
もし解雇されてしまったら
妊娠や出産を理由に不当に解雇され、勤務先の窓口への相談や交渉が難しい場合には、労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談しましょう。労働局や労働基準監督署などの公的機関に相談すると、事業主に対する事情聴取や調査が行われ、法律に違反していると判明すれば、改善のための指導や勧告が実施されます。
労働局でも取り合ってもらえない場合には、労働審判の申し立てを行います。労働審判は、従業員と事業主との間で起きた労働問題を解決するために判断を下す裁判所の手続きです。
労働審判官1名と労働審判員2名が審理するもので、迅速かつ適正な解決を図ることを目的とし、通常の裁判よりも短い期間で終了します。
もし退職勧奨をされたら
自ら退職するように促す退職勧奨は、あくまでも意思確認であるため、同意しないことが大切です。複数の上司や同僚が入れ替わり退職を促してきたり、退職を誘導するような説明をしてきたりとさまざまな手段で行われるケースがありますが、毅然とした態度を示してはっきりと断ります。
退職勧奨をされて対応が難しい場合には、弁護士や行政機関(紛争解決援助制度の活用)に相談したり、労働審判や労働訴訟で争ったりすることも視野に入れておきましょう。
なお、意思確認が十分でないまま退職届に署名をさせられるなどは違法になる可能性が高いですが、証拠が不十分だと労働審判や訴訟で争うことが難しくなる場合があります。
もし不利益処分を受けたら
解雇以外に減給や降格、配置転換などの不利益処分も法律で禁止されているため、事業主に対して書面で処分無効の通知を行います。のちに労働審判や裁判になった場合にも、不利益処分について同意していないことの証拠や証明として残すことができるからです。
個人での解決が難しい場合には、労働基準監督署などの公的機関に相談しましょう。事業主の調査や事情確認とともに、必要な場合には指導や勧告、不利益処分を無効にするための支援を行ってもらえます。
妊娠は女性にとって人生の大切なライフイベント。心穏やかに出産を迎えたいですが、残念ながら妊娠を理由に会社から退職を迫られたり、不利益な処分をこうむったりするなどの被害も存在します。
心身ともに負担が大きいなか、もし退職を迫られた場合に冷静な対応ができるよう、正しい対処法を覚えておきましょう。
監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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