働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
妊娠を理由に退職を迫られたら?覚えておくべき正しい対処法
更新日:2024年5月27日
妊娠しても仕事を続ける女性は珍しくありません。しかし、妊娠を理由に会社から退職を迫られたり解雇通知を受けたりするなど、働く妊婦が不利益な扱いを受け、結果的に泣き寝入りせざるを得ず仕事を辞めてしまうケースもあります。そこで今回は、妊娠を理由に会社から退職を迫られた際の正しい対処法について解説します。
妊娠を理由に退職させるのは違法
働く女性が妊娠や出産をしても仕事を継続するための法律や制度が見直され、働きやすい環境が整ってきました。以下はその一例です(※1,2)。
法律 | 女性が持つ権利や会社に課される義務 |
---|---|
労働基準法 | ・妊婦が請求した場合、残業や休日出勤、深夜労働をさせてはならない ・妊婦が請求した場合、妊娠や出産に有害な業務に就かせることはできない |
男女雇用機会均等法 | ・妊婦健診を受診するための時間を確保しなければならない ・医師から指導があった場合、通勤緩和などの勤務の軽減措置を取らなければならない ・妊娠・出産などを理由とした解雇や不利益な取り扱いの禁止 |
育児・介護休業法 | ・妊娠・出産などを理由とした解雇や不利益な取り扱いの禁止 |
上記の法律を根拠として、勤務先が女性従業員に対して妊娠を理由に解雇や退職勧奨をすることは不当であり、一方的な解雇は無効になります。
妊娠は解雇や退職勧奨の理由にならない
会社が、一方的な解雇ではなく「退職勧奨」という手段で退職を迫るケースもあります。退職勧奨とは、会社が従業員に対して自ら退職するように促すことです。
本来、会社は客観的かつ合理的な理由がない限り従業員を解雇できません。そのため、解雇するのではなく従業員に同意してもらい退職を選択させる、というわけです。
男女雇用機会均等法では、「妊娠や出産は退職理由にはならず、また、妊娠中および出産後1年が経過していない労働者に行われた妊娠や出産を理由とした解雇も無効になる」ことが書かれています。
このことから、解雇・退職勧奨のいずれの場合でも妊娠や出産は合理的な理由にならず、法律に抵触した行為といえます。
妊娠を理由とした減給・降格は禁止
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法で規定されている、「妊娠・出産などを理由とした解雇や不利益な取り扱いの禁止」には、解雇以外に以下のような対応も対象となります。
- ・減給、降格させる
- ・正社員からパートタイムなど非正規雇用社員へ労働契約の内容変更を強要する
- ・有期雇用契約者に対して契約の更新をしない
- ・派遣社員について派遣先が受け入れを拒む
- ・不利益な自宅待機を命じる
- ・就業環境を害する
- ・不利益な配置に転換する
マタハラも禁止されている
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法では、会社に対してマタニティハラスメント(マタハラ)の防止も義務付けています。
マタハラとは、妊娠・出産などに対する上司や同僚の言動により、本人の就業環境が害されることをいいます(※3)。以下の言動がマタハラの代表例です。
- ・妊婦健診のために休みを申請しようとしたら、会社が休みの日に受診するよう上司に言われた
- ・上司に妊娠を報告したら、「なんで忙しい時期に妊娠するんだ」と冗談めかして言われた
このように解雇や不利益な扱いに加えて、妊娠・出産を理由とした嫌がらせなどについても禁止されています。
妊娠を理由に解雇・不利益処分を受けた場合の正しい対処法
法律により禁止されているにもかかわらず、妊娠を理由に解雇や不利益処分を受けた場合には、正しく対処する必要があります。
ここからは、不当に解雇を言い渡されたり、退職勧奨されたり、不利益処分を受けたりした場合の対処法について解説します。
最初にやるべきこと
解雇を言い渡されたら、同意する前(解雇の予告から離職までの間)に解雇理由証明書を発行してもらってください。
解雇理由証明書とは、離職の日付や責任者名、解雇の理由などが記載されたものです。
労働基準法第22条に定められているとおり、従業員が発行を請求した場合、会社にはこれに応じる義務があります(※4)。
また、これと並行して、不当な扱いを受けた証拠となるものを集めましょう。
もし解雇されてしまったら
【労働基準監督署や弁護士に相談】
妊娠や出産を理由に不当に解雇され、勤務先の窓口への相談や交渉が難しい場合には、労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談しましょう。
労働基準監督署などの公的機関に相談すると、事業主に対する事情聴取や調査が行われ、法律に違反していると判明すれば、改善のための指導や勧告が実施されます。
【労働審判の申し立て】
労働基準監督署に相談しても思うように改善されない場合には、労働審判の申し立てを行います。
労働審判は、従業員と事業主との間で起きた労働問題を解決するために判断を下す裁判所の手続きです。
労働審判官1名と労働審判員2名が審理するもので、迅速かつ適正な解決を図ることを目的とし、通常の裁判よりも短い期間で終了します。
もし退職勧奨をされたら
【絶対に同意しない】
自ら退職するように促す退職勧奨は、あくまで意思確認であるため、同意しないことが大切です。
複数の上司や同僚が入れ代わり立ち代わり退職を促してきたり、退職を誘導するような説明をしてきたりと、さまざまな手段で行われます。
しかし、毅然とした態度ではっきりと断りましょう。
なお、退職勧奨に伴い、退職金の上乗せなど有利な条件を提示されることがあります。その場合は、口頭ではなく書面で伝えてもらうようにしてください。
時間をかけて検討するためです。退職に関する同意書に急いで署名することがないように注意しましょう。
【場合によっては弁護士や公的機関への相談も】
退職勧奨をされて対応が難しい場合には、弁護士や公的機関に相談したり、労働審判や労働訴訟で争ったりすることも視野に入れておきましょう。
なお、意思確認を十分にせず退職届に署名させることも違法になる可能性がありますが、証拠が不十分だと労働審判や訴訟で争うことが難しくなる場合があります。
もし不利益処分を受けたら
減給や降格、配置転換などの不利益処分を受けたら、会社に対して書面で処分無効の通知を行いましょう。
後に労働審判や裁判になった場合に、不利益処分に同意していないことの証拠や証明となるからです。
自分で解決するのが難しいときは、労働基準監督署などの公的機関に相談してください。
会社に対する調査や事実確認とともに、必要な場合には指導や勧告、不利益処分を無効にするための支援を行ってもらえます。
妊娠がきっかけで退職したら給付金や失業保険はもらえる?
妊娠を理由に解雇や不利益処分を受けた後、自らの判断で退職を選択するケースもあります。
例えば、勤務先とのやりとりの中で、その会社で働き続けることが難しいと従業員が自ら感じたり、労働審判や労働訴訟で解雇や退職勧奨に足る十分な理由が認められたりした場合です。
そういったときに備えて、退職後に妊娠・出産に関する給付金や失業保険が受け取れるかどうか知っておきましょう。
出産手当金
出産手当金とは、健康保険の被保険者が出産のために会社を休み、その間に給与の支払いがなかった場合に支給されるお金です(※5)。
出産前に退職した場合でも、以下の条件をすべて満たしていれば出産手当金が支給されます。
- ・退職日までに継続して1年以上の被保険者期間がある
- ・出産手当金の支給対象期間に退職している
- ・退職日に出勤していない
育児休業給付金
育児休業給付金とは、雇用保険の被保険者が育児休業を取ったときに支給されるお金です(※6)。
産後も仕事を続けることが支給条件となっているため、妊娠を理由として退職した場合には支給対象外となります。
失業保険
失業保険(失業手当)は、失業した上で求職申し込みをしている場合に受け取れる給付金です。
妊娠が理由の退職では、求職の申し込み自体がすぐにはできないため、受給の対象外となります。
ただし、一定の条件を満たせば、特例として受給できます(※7,8)。詳しく知りたい場合はハローワークで確認しましょう。
妊娠は大切なライフイベント。心穏やかに出産を迎えたいものですが、残念ながら妊娠を理由に会社から退職を迫られたり、不利益な処分を受けたりするなどの被害も存在します。
心身ともに負担が大きい中、退職を迫られた場合に冷静な対応ができるよう、正しい知識と対処法を理解しておきましょう。
参考
※1 厚生労働省「働く女性の母性健康管理のために」
※2 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
※3 厚生労働省「ハラスメントの定義」
※4 デジタル庁 e-Gov法令検索「労働基準法」
※5 全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」
※6 厚生労働省「Q&A~育児休業給付~」
※7 厚生労働省 ハローワーク インターネットサービス「基本手当について」
※8 厚生労働省 ハローワーク インターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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