働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
帝王切開は高額療養費の対象になる?役立つ制度を紹介!
更新日:2024年4月26日
帝王切開による出産は開腹手術になるので、自然分娩よりも出産費用が高くなります。でも、費用を抑えられる高額療養費制度などの仕組みがあるので、慌てる必要はありません。帝王切開の出産費用に関する制度と、帝王切開後の仕事復帰に向けた過ごし方について詳しく解説します。
帝王切開にかかる出産費用
最初に、帝王切開にかかる出産費用について見ていきましょう。
帝王切開で出産をしたときの費用は、「自然分娩の費用」と「帝王切開の手術費用」に分類すると分かりやすくなります。
自然分娩の費用
厚生労働省によると、2022年度の自然分娩にかかる費用の全施設平均は482,294円です(※1)。主な内訳は以下のとおりとなっています。
- 入院料
- 分娩料
- 新生児管理保育料
- 検査・薬剤料
- 処置・手当料
- 産科医療補償制度の掛け金(もし出産中に事故があった場合の賠償費用の掛け金)
帝王切開の手術費用
帝王切開による出産では、上記の項目に手術費用が加わります。帝王切開の手術費用は、厚生労働省が定めている診療報酬によって決まっています。
2022年4月施行の診療報酬では、緊急帝王切開が22万2000円、予定帝王切開が20万1400円です(※2)。
保険が適用され、このうち3割が自己負担となるため、実際に病院で支払う金額は6万円程度になります。
以上により、帝王切開による出産費用の目安は50万~60万円ほどです。
ただし、出産する地域や病院、母体の状況、手術内容によって異なります。
出産前に帝王切開の可能性が分かっているときは、出産予定の病院で手術費用を聞いておくと安心でしょう。
帝王切開で高額療養費制度は使える?
帝王切開による出産は費用が高くなるので、事前にどのくらいお金を用意すべきか心配になることもあるでしょう。
しかし、健康保険に加入している人や被扶養者の場合、高額療養費制度などのさまざまな公的制度を利用することが可能です。
そこで、帝王切開による出産で使える制度と手続き方法をご紹介します。
高額療養費制度
高額療養費制度は、ひと月に医療機関や薬局で支払った金額が自己負担限度額以上になった場合に、その差額分が返還される制度です(※3)。
対象は保険適用される診療のみです。帝王切開は保険適用されるため、手術と治療にかかった費用は高額療養費制度の対象になります。
自己負担限度額は所得や年齢によって設定されており、69歳以下の場合は以下の表のとおりです。
所得(年収) | ひと月の自己負担限度額(世帯ごと) |
---|---|
約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
約770万~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
約370万~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
~約370万円 | 57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
仮に、30代で年収が400万円の女性が手術を受け、かかった医療費が30万円だった場合の自己負担限度額は以下のようになります。
80,100円+(300,000円-267,000円)×1%=80,430円
医療費が30万円のとき実際に支払う金額はそのうちの3割、つまり9万円です。よって、高額療養費制度が適用された場合に返還される金額は以下のとおりです。
90,000円-80,430円=9,570円
<手続き方法>
高額療養費制度を利用するためには、加入している健康保険組合または全国健康保険協会(協会けんぽ)に高額療養費の申請を行います。
申請の期間は、診療を受けた月の翌月1日から2年以内です。
事前に自己負担限度額を超えることが分かっているのであれば、あらかじめ「限度額適用認定証」を取得しておくことで、医療機関窓口で支払う金額が自己負担限度額まで抑えられます。
緊急帝王切開の場合、事前には分からないので限度額適用認定証を取得できず、いったん窓口で全額負担し、後から自己負担限度額との差額分が返還されるので注意しましょう。
出産育児一時金
出産育児一時金は、自然分娩・帝王切開による出産のどちらでも利用できる制度です。子ども1人につき50万円が支給されます(※4)。
ただし、産科医療補償制度に未加入の医療機関などで出産した場合、または産科医療補償制度に加入の医療機関などで妊娠22週未満で出産した場合の支給額は、1人につき48万8000円になります。
対象となるのは、健康保険に加入している人または加入者の扶養家族で、妊娠4カ月(85日)以上で出産した人です。
なお、妊娠月を数える場合、1カ月を28日として計算します。よって、84日で3カ月が満了し、85日目から4カ月目が始まることになります。
<手続き方法>
出産育児一時金の受け取り方法には「直接支払制度」「受取代理制度」「事後申請」があり、受け取り方法により手続きが変わります。
一般的には「直接支払制度」が利用されるケースが多く、その場合には以下のような流れで支給されます。
- 退院時に病院へ支払いをするとき、必要書類を窓口で提出
- 病院が、加入している健康保険組合などに対して出産費用を請求
- 健康保険組合が病院に出産費用を支払う
- 出産費用が出産育児一時金の支給額を超えなかった場合、その差額分が銀行口座に振り込まれる
「直接支払制度」を利用すると、病院と健康保険組合または全国健康保険協会(協会けんぽ)の間だけでやりとりが行われるため、事前に準備する出産費用を抑えられます。
もし帝王切開の予定があって費用の工面が難しい場合は、病院に「直接支払制度」の利用を申請しましょう。事後申請の場合、申請期間が出産日の翌日から2年以内なので注意が必要です(※5)。
出産手当金
出産手当金は、産休期間中に給料の代わりとして支給される手当です(※6)。
支給対象となるのは健康保険に加入していて妊娠4カ月(85日)以降に出産をする人で、扶養家族は対象になりません。
出産日以前の42日間(多胎妊娠の場合98日)と出産日の翌日以後の56日間を対象期間とし、産休前1年間の月給を基礎にして計算された金額が支給されます。
詳しい支給金額の計算式は以下のとおりです。
(過去1年間に支払われた標準報酬月額の平均金額)÷30日×3分の2=日額
日額×(出産日以前42日間で休んだ日数+出産日の翌日以後56日間で休んだ日数)=支給額
<手続き方法>
出産手当金は勤務先の健康保険組合または全国健康保険協会(協会けんぽ)から支給されます。
勤務先の担当窓口で申請書類を受け取り、記入の上、必要書類を添付して提出しましょう。
帝王切開に医療保険は適用される?
出産は病気やけがではないので、基本的に民間の医療保険は適用されません。しかし、帝王切開による出産は手術を伴うため、民間の医療保険が適用されます。
民間の医療保険には加入したほうがよい?
帝王切開による出産で、民間の医療保険から支給される主な保障項目は「入院給付金」と「手術給付金」です。
また、女性疾病特約保障というものもあります。これは、女性がかかりやすい病気に対する特約で、帝王切開が必要になった場合にも適用されます。
女性疾病特約保障を契約していれば、上記2種類の給付金に上乗せする形で受け取れます。
帝王切開は自然分娩よりも入院日数が長くなりがちなので、給付金があると助かるという人もいるでしょう。
万が一に備えたい人は民間の医療保険に入っておくというのも一つの手です。
帝王切開の経験があると加入できない場合も
過去に帝王切開で出産したことがある経産婦や、すでに医師から帝王切開の指示を受けている場合には、状況によって加入できないことがあります。
また、妊娠発覚後には加入できなかったり、妊娠・出産による合併症は保障しない保険にしか加入できないなどの制約があるケースもあるため注意が必要です。
保険加入を検討するのであれば、念のため、保険会社に確認しておきましょう。
帝王切開による出産は、体力的な負担だけではなく、費用面でも不安に思うことが多くあるでしょう。
しかし、高額療養費制度をはじめとする公的な制度や民間の医療保険などを上手に使うことで、精神的にも費用的にも負担を減らすことができます。
まずは、さまざまな制度があることを知り、安心して出産できるようにうまく活用していきましょう。
- 参考
監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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