働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
妊娠や出産を原因とする会社とのトラブルは「紛争解決援助制度」で解決を
更新日:2021年5月31日
女性にとって妊娠や出産は人生における大切なライフイベントですが、仕事を続けながら両立するにはさまざまな壁が立ちはだかることもあります。そこで今回は、妊娠や出産が原因で会社とトラブルになってしまったときの解決方法「紛争解決援助制度」について解説します。
- [目次]
妊娠・出産に関するトラブル
妊娠中は身体的に大きな変化があり、これまでと同じ仕事ができなくなったり通勤がつらくなったりして、会社へ相談すべきことが多く発生します。しかし、男性が多い職場など受け入れ態勢が整っていない場合には、妊娠や出産が原因でトラブルに発展することがあります。
そこで、働く妊婦が会社とトラブルになってしまったときに、これを支援するための法的な制度や公的な支援が設けられています。
妊娠や出産に関するトラブルについては男女雇用機会均等法に基づく紛争解決援助制度があり、以下のいずれかの方法で援助を受けられます。
一つは都道府県労働局長による紛争解決の援助、もう一つは調停委員が間に立つ「機会均等調停会議(均等法)」の調停によって行う援助です。どちらの場合も公平な第三者が両当事者の納得が得られるような解決策を提示し、紛争解決に向けて対応します。
都道府県労働局雇用均等室は、育児休業などにまつわる勤務先とのトラブル解決に向けた援助制度を設けています。子どもの看護休暇や妊娠・出産に関しての不当な扱いなども、相談に応じてもらえます。(育児・介護休業法第52条の4、第52条の5)
対象者と援助の内容
前述のとおり、妊娠や出産に関するトラブルは男女雇用機会均等法に基づき解決が図られます。男女雇用機会均等法では、「事業主が妊娠中や出産後の従業員の健康管理に必要な措置を講じる義務」や、「妊娠・出産・育児休業などを理由として事業主が従業員に対して行う不利益な取り扱いの禁止」が明示されており、この法律に基づいて援助が行われることになります。
援助の対象は当事者の男女従業員および事業主で、労働組合や使用者団体といった第三者は対象外です。また、対象となる内容は、妊娠中および出産後の健康管理や、妊娠・出産を理由にした解雇や不利益な取り扱いについてです。
例えば、「妊婦健診に行きたいのに休ませてもらえない」「医師から指導を受けて時差出勤や勤務時間の短縮の措置が必要にもかかわらず、対応してもらえない」などが援助の対象となる事案です。
ほかにも、「産休と育休を希望したら退職を強要された」「不利益な配置変更や人事考課で低い評価が行われた」なども妊娠・出産を理由にした不利益な扱いに該当するため、援助の対象となります。
上記のような内容を都道府県労働局雇用均等室に電話や手紙などにより申し出ると、労働者と事業主の双方に対して事情聴取が行われ、問題解決に必要な助言や勧告などをしてもらえます。
育児に関するトラブル
育児休業を取得してから職場復帰を希望するケースが増えることで、育児に関して会社とトラブルが起こる事例も発生しています。
そこで、育児に関しては育児・介護休業法に基づく紛争解決の援助が行われます。この場合も都道府県労働局長による紛争解決の援助、もしくは調停委員が間に立つ「両立支援調停会議(育介法)」の調停による援助のいずれかの解決策を求めることが可能です。
対象者と援助の内容
援助の対象者は男女従業員と事業主の双方です。労働組合と事業主間の紛争や従業員同士による紛争などは援助の対象にはなりません。
援助の対象となるトラブルは、育児休業制度や子の看護休暇制度、育児のための所定外労働の制限や所定労働時間の短縮に関するものなどがあります。
都道府県労働局長による紛争解決の援助例として、育児休業の取得を理由に職種変更をされた事案があります。具体的な内容は、「事務職で採用された社員が、育児休業からの復職にあたり、営業職での復帰しか認めないと言われた」という申し立てです。
この事案については、育児休業を取得した申立者のみに営業職への転換が勧められていた事実が判明し、「育児休業の取得を理由とした不利益な取り扱いにあたる可能性が高い」との助言が行われ、申立者は事務職として復職できました。
両立支援調停会議による調停の援助例では、「事業主による解釈の間違いにより、本来育児休業を取得できたはずの従業員が、産休後すぐに保育園に子どもを預けて復職することになった」ことに対する調停事案がありました。
この事案では、申立者は本来必要のなかった保育園の費用などの金銭的補償を求める調停申請を行い、事業主の謝罪とともに解決金を支払う調停案が調停委員により作成され、双方の合意に至りました。
仕事と子育ての両立を目指して働く女性が増える一方で、妊娠や出産が原因のトラブルも増加しています。
今回紹介したような行政による紛争解決援助制度を知っておくことで、会社とのトラブルを理由に仕事が続けられなくなったり、不利益を被る事態を避けられたりする可能性もありますので、しっかり押さえておきましょう。
厚生労働省 都道府県労働局雇用均等室(紛争解決援助制度)
監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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