働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
育休中や産休中の転職は難しい?退職時の注意点もチェック
更新日:2024年5月27日
産休・育休の取得は、基本的に復職することが前提ですが、さまざまな理由で休業期間中に転職を考える人もいるでしょう。産休中・育休中の転職は、通常の転職に比べて手続きが煩雑で、応募先企業の心証が良くないこともあります。そこで、休業期間中の転職活動の際や退職時に気をつけるポイントを説明します。
※本記事の掲載内容については、ご自身や所属企業の状況、新型コロナウイルスによる社会情勢などを踏まえて、可能な範囲での行動や対応を行いましょう。
産休・育休中の自己都合退職の注意点
基本的に、産休の取得は出産後8週間まで、育休の取得は子どもが1歳の誕生日を迎える前日までとなっています(※1)。
育児に忙しい時期ですが、この期間に退職や転職を考える場合もあるでしょう。主な理由としては、以下のようなケースが考えられます。
- ・復職を希望していても勤務先の状況の変化により仕方なく退職となるケース
- ・体調の変化や時間の制約などから休職前と同じ環境では仕事ができないと考えて退職するケース
時短勤務や各種社内制度を活用して復職しようとしても、会社や自身の状況によっては自己都合退職をせざるを得ないこともあります。
なお、自己都合退職と会社都合退職の違いを知りたい方は以下の記事をご覧ください。
それでは、ここからは産休中や育休中に自己都合退職をする場合に押さえておくべきポイントを見ていきます。
退職届を出すタイミングは?
やむを得ない事情の場合、退職を決意した段階で勤務先に連絡を入れます。
勤務先は復職を前提としてスケジュールを立てています。少しでも迷惑をかけないため、決意したら早めに連絡を入れ、退職の意思を伝えましょう。
産休中や育休中であっても、可能であれば出社して上司に意思を伝えます。どうしても出社できない場合は、メールではなく電話連絡がマナーです。
その後、退職届(退職願)を提出します。
手続きなどで出社する際には、お世話になった職場の先輩や仲間にもしっかりとあいさつをしましょう。
具体的な退職手続きについては以下の記事をご覧ください。
給付金はもらえる?
妊娠や出産、育児期間中には各種給付金や一時金などが受け取れますが、退職によって支給条件が変わるため、注意が必要です。
【出産手当金の退職後の支給条件(※2)】
- ・退職日まで1年以上継続して健康保険に加入している
- ・退職日が出産手当金の支給期間中である(出産予定日以前42日から、多胎の場合は98日から出生日の翌日以降56日までの間である)
- ・退職日に出勤していない(ただし、退職日が有給休暇だった場合は支給対象)
出産手当金については以下の記事でも詳しく解説しています。
【出産育児一時金の退職後の支給条件(※3)】
- ・退職日まで1年以上継続して健康保険に加入している
- ・退職日翌日から6カ月以内に出産した
- ・妊娠4カ月(85日)以上の出産である
なお、退職後の支給条件を満たしていても、退職後に夫の扶養に入った場合は本人の出産育児一時金または夫の家族出産育児一時金のどちらか一方の支給になります。
出産育児一時金について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
【育児休業給付金(※4)】
育児休業給付金は、退職後は支給されません。
育児休業を開始した日から計算して1カ月ごとに区切ったものを「支給単位期間」と呼びます。
育児休業給付金が支給されるのは、退職日が属する月の支給単位期間の前の支給単位期間までです。
育児休業給付金について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
社会保険料の支払いはどうなる?
産休中や育休中は健康保険料などの社会保険料の支払いが免除されますが、退職した場合には適用されなくなります(※5)。
そのため、退職後は夫の扶養に入るか、任意継続被保険者制度の利用を検討するとよいでしょう。
任意継続被保険者制度は、退職前の健康保険への加入を継続できる制度です。
任意のため保険料は免除されませんが、在職中と同様に保険給付を受けることができます(※6)。
ただし、出産手当金および傷病手当金は支給されないため注意しましょう。
任意継続被保険者が出産手当金を受け取るには、出産手当金の退職後の支給条件を満たしている必要があります。
産休・育休中の転職は難しい?
出産や育児によって生活環境が大きく変わり、転職を余儀なくされることもあるでしょう。
しかし、産休中や育休中の転職活動は思いどおりに進むのでしょうか?
応募先企業からはどう見られる?
産休・育休中に退職することは、会社側から見れば印象が良いものではありません。とはいえ、やむを得ないことは誰でもあると思います。
一方的な理由でない正当な自己都合退職なのであれば、その事実をしっかりと転職を希望する会社に理解してもらうことが大切です。
自身や配偶者の異動・転勤・介護・一斉解雇などのやむを得ない理由がある場合は、面接時にその旨を伝えます。
また、正当な理由に加えて、なぜその企業を志望するに至ったか、自身の強みやビジョンのアピールも忘れずしましょう。
保育所が先に決まっていないとハードルが高い
産休中や育休中の転職活動は、子どもの預け先があらかじめ決まっていないと難しくなりがちです。
オンライン面接を取り入れている企業であれば選考時点では問題ないかもしれません。
しかし、預け先が決まっていないと、入社後の働き方を企業側が想定しにくくなります。その結果、採用に対して及び腰になってしまうことも。
そういったことを防ぐため、保育所だけでなく認定こども園や認可外保育所なども視野に入れて預け先を探したほうが良いでしょう。
さらにその上で、面接では、採用となった場合に預け先があると伝えることも重要です。
入社後すぐは時短勤務で働けない場合も
産休・育休明けに転職をすると、転職先ですぐには時短勤務を利用できないことがあります。
労使協定で、入社後1年未満の社員を時短勤務の対象外としている企業もあるからです。
有給休暇や看護休暇も、労使協定で入社後6カ月を経過しないと付与しない企業があります。
時短勤務を希望するのであれば、面接などで事前に利用可能か確認しておきましょう。
産休・育休中の転職で考えるべきこと
最後に、産休・育休中に転職活動をする前提での流れや注意点についてまとめます。
子どもの預け先を決める
先ほど説明したとおり、子どもの預け先が決まっていないと転職は難しくなります。
また、すでに上の子が保育園に通っている場合、勤め先が決まらないまま退職すると、1~3カ月程度の猶予期間の後に退園となることがあります。
そのため、産休中や育休中の転職を希望する場合は、まず子どもの預け先を決め、今の会社を退職せずに転職先を探しましょう。
具体的な流れは以下のとおりです。
<産休中や育休中に転職活動をする際の具体的な流れ>
- 1.産休中や育休中に勤務先から就労証明書をもらう
- 2.保育園に申し込んで入園許可をもらう
- 3.転職活動~内定
- 4.転職先の就労証明書と所定の書類を提出して、勤務先の変更手続きを行う
もし保育園の決定より先に応募先から内定が出た場合、応募先には就労証明書の代わりに内定証明書を発行してもらいましょう。
転職に向けてやるべきことや考えを整理する
産休中や育休中は体調が不安定だったり、子育てで忙しかったりするため、通常の転職よりも負担がかかりがちです。
しかも前述のように、転職するには考慮しなければならないことがいくつかあります。
そのため、効率的に転職活動ができるように、退職に向けてやるべきことや考えておくべきことの整理と、それらの優先順位付けをしておきましょう。
また、本当にこのタイミングでの退職が望ましいのか、改めて考えてみることも大切です。
自身の体調や保育園探しの状況、転職先の考えなども踏まえた上で、自分にとって最善だといえるタイミングで転職をしたいですね。
参考
※1
厚生労働省「産前・産後休業を取るときは」
※2 全国健康保険協会「出産手当金について」
※3 全国健康保険協会「子どもが生まれたとき」
※4 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
※5
日本年金機構「厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)」
※6 全国健康保険協会「退職後の健康保険について」
監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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