働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
ヘルスリテラシーを向上させて妊娠・子育て期間をもっと健康に
更新日:2022年1月31日
健康や医療に関する情報を効果的に活用できる「ヘルスリテラシー」が注目されています。妊娠中や子育て中に健康的な生活を送るためには、自身の体の状態に気を配り、あふれる情報の中から必要なものを入手して活用することが大切です。そこで今回は、ヘルスリテラシーを向上させるための取り組みについて、定義と合わせて解説します。
ヘルスリテラシーとは?
ヘルスリテラシーとは、「健康や医療に関する情報を検索し、理解し、評価したうえで活用する能力」のことです。
本来、「リテラシー」という言葉は文字の読み書きができる能力のことを指すものですが、現在では「自分に必要な情報を適切に選んで意思決定ができる力」として、単独の用語ではなく「情報リテラシー」や「金融リテラシー」など、関連する言葉とつなげて使用されることが多くなっています。
医療や制度を適切なタイミングで活用するためには、ヘルスリテラシーを向上させて健康や医療に関する情報を正しく取得・理解することが大切です。
ヘルスリテラシーの定義
ヘルスリテラシーの定義は、「生活の質を維持・向上させて健康的な生活を送るために必要な健康・医療関連情報を取得し、有効に活用する能力」です。
ヘルスリテラシーが高まれば、日常生活における疾病予防や健康増進について、多くの情報に振り回されずに判断でき、生活の質を維持・向上させられるでしょう。
インターネットが普及した情報化社会では、健康に関する情報があふれている一方で、不正確なものや商業目的のもの、偏った情報なども多く存在します。このような環境で多くの情報の中から自分にとって必要で正しい内容を見極めて使いこなすリテラシーが必要なのです。
具体的には、「情報源がどこなのか」「エビデンスとなるデータや出典が明記されているか」「情報が最新のものか」などを見極めることが大切です。
ヘルスリテラシーの3つの段階
ヘルスリテラシーは以下の3つの段階に分類されます。基本的な読み書き能力から情報を分析・活用する高度な能力までが段階的に分類されており、集団に対する影響力があるかなども区別の対象となっています。
機能的ヘルスリテラシー
日常生活における読み書き能力をもとにした基本のレベルです。健康や医療に関して書かれた情報を理解できる水準で、情報の受け手としての能力です。
例えば、医療機関を受診した際に医師からの助言や説明の内容が理解できることや、医薬品の説明書・パンフレットの内容が分かることがこの段階に対応します。
伝達的/相互作用的ヘルスリテラシー
健康や医療に関して必要な情報を自ら検索して入手し、意味を理解して他人に伝達したり、自分で適用したりできる能力です。また、知人から健康に関する情報を受け取る、あるいはすすめられた医療機関について自ら調べて情報を収集したうえで受診ができる水準です。
さまざまな形のコミュニケーションによって情報を入手して理解するため、「周囲のサポートや環境により発揮できる個人の能力」と定義されています。
批判的ヘルスリテラシー
批判的ヘルスリテラシーは、3つの段階のうちで最も高度なレベルです。得られた健康医療情報を鵜呑みにせず、批判的に分析して主体的に活用しようとする能力で、情報をもとに社会的または政治的な活動ができることを指します。
例えば、流行している病気についての情報を自主的に調べて、入手した予防方法や対策を会社内に共有したりするなど、社会やコミュニティーに対してアクションを起こせる、といった水準に対応します。こうした批判的ヘルスリテラシーは、自分のためだけではなく社会や周囲に情報を広めるなどの発信力も備えています。
ヘルスリテラシーを向上させよう
世界と比較すると、日本人のヘルスリテラシーはあまり高いとは言えません。働く女性は、キャリアを重視して仕事に打ち込むあまり、時として自分の体の状態など健康管理に対しての意識が低くなってしまうケースが見受けられ、その結果、ヘルスリテラシーが向上しないことがあります。
しかし、将来の望んだときに妊娠したり、妊娠中や子育て中も健康的な暮らしで生活の質を維持したりするためには、自身の健康状態に意識を向け、自分の体に関する必要な情報を取捨選択して理解し、日々の生活に取り入れていくことが大切です。
また、パートナーの意識を高めるのも、もちろん望ましいことです。自分だけで身体や心の変化にすべて気づいて的確に対処するのは難しいかもしれませんが、パートナーのヘルスリテラシーが十分にあれば、その分を補完してもらえるでしょう。
アメリカではヘルスリテラシーに関する研究や実践が進んでいます。保健福祉省が2010年に公表した“National Action Plan to Improve Health Literacy”では、以下の2つの原則が掲げられました。
・すべての人が、情報に基づいた意思決定をするのに役立つ健康情報を取得する権利をもつ
・保健医療サービスは、分かりやすい方法で、かつ健康・長寿・QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)に資する形で提供されなければならない
さらに、教育カリキュラムへの組み込みなどの7つのゴールと、これらのゴールに対応する具体的な行動戦略が定められ、具体的な取り組みが実施されています。
ヘルスリテラシーが低いとどうなる?
ヘルスリテラシーが低いと、健康への悪影響が懸念されます。例えば、不健康な生活習慣を続けてしまったり、定期的な健康診断や必要な再検査を拒否したりしてしまうでしょう。また、受診をして医師から健康に関する指導を受けても、その指導内容を理解できなかったり守れなかったりすることが起こり得ます。
さらに、自分の症状に気がつかなかったり、気づいたとしても適切な医療機関を探せずに結果として放置してしまう可能性もあります。最悪の場合、不正確な情報や偏った情報に振り回され、健康に有害な行動をしてしまう危険性もあるでしょう。
妊娠や子育てに関しても、ヘルスリテラシーが低いとやはり健康への悪影響が考えられます。例えば、知識がないせいで胎児や子どもに健康上有害なことをしてしまったり、自身の体調を守れなくなったりしてしまうでしょう。
妊娠にスポットを当てると、ヘルスリテラシーが高い女性は、月経異常への対処行動として医療機関を受診したり処方薬を飲んだり、早いタイミングで不妊治療に取り組んだりする一方で、そうでない女性は何もしない割合が高い傾向が見られます。
また、乳がんや子宮がんなどの検診結果で異常が見つかっても、自覚症状がないことや仕事が忙しいことを理由に精密検査や適切な治療を受けずに放置してしまうことで、妊娠や出産に悪影響が及ぶこともあります。
今からすぐにできること
ヘルスリテラシーを身につけることで、健康への意識が高まって生活の質を維持・向上させられます。
具体的な行動としては、病気や症状があるときには医療機関を利用し、医師や専門家のアドバイスや指導を適切に守ることが挙げられます。また、病気になって症状が出る前の取り組みとして、予防接種や妊婦健診を受診するといった予防のための行動を心がけることも必要でしょう。そのほか、正しい知識のもと健康維持のためにジムに通ったり、適度に体を動かす時間を設けたりすることも大切です。
自身の健康状態について気を配って正確な情報を入手し、体調に照らし合わせて取り入れるかどうか判断をすることでもヘルスリテラシーが高まります。
このとき、インターネット上にあふれる情報の中から自分に合った正しい情報を見極めるため、正確な情報が掲載されているサイトを利用しましょう。具体的には、厚生労働省をはじめとした行政機関や公的な研究機関、大学などから発信されている情報は一般的に信ぴょう性が高いといえます。
妊娠中や子育て中のヘルスリテラシーは、各自治体が開催している母親学級への参加や妊婦健診の受診、担当医師や助産師の話をよく聞き疑問点を質問することなどでも向上が図れます。妊娠中や子育て中はさまざまな変化が起き、だれもが心細くなるものです。あふれる情報に振り回されたり不安になったりしないように、正しい情報のもとに行動をとっていきましょう。
ここまでのそれぞれの点について、3つの面から具体的なチェックポイントをまとめましたので、ぜひご活用ください。
【医師や専門家のアドバイスや指導を適切に守る】
- ・伝えたいことは事前にメモにまとめておく
- ・担当医や専門家の説明を聞いても分からないことは、理解できるまで質問する
- ・小さな疑問も相談できるように、かかりつけ医を作る
【自身の健康状態を知る】
- ・予防接種や妊婦健診を受診する
- ・日ごろから自身の健康状態について気を配る
- ・体調の変化を読み取り、必要に応じて医療機関を利用する
【正確な情報を得る】
- ・情報源を確認し、行政機関や大学など一般的に信ぴょう性が高いとされているサイトを利用する
- ・できるだけ新しい情報を参照する
- ・ほかの情報と比較して偏った見方をしていないか確認する
ヘルスリテラシーが高ければ、望んでいる時期に妊娠できない場合には適切な不妊治療を受けたり、月経異常などに早い段階で気づいて医療機関を受診したりするなどの対応ができます。また、妊娠・育児中でも、自身はもちろん、大切な子どもの健康も守ることができます。健康に対して必要な情報を正しく理解して活用する力を向上させて、生涯にわたり質の高い健康的な生活を維持しましょう。
監修者:VISION PARTNER メンタルクリニック四谷 / 副院長 堤 多可弘(つつみ・たかひろ)
労働衛生コンサルタント/日本医師会認定産業医。弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長と、健康経営コンサルティング企業である株式会社Appdateの取締役を務めるとともに、首都圏および青森県の企業や行政機関の産業医を10カ所以上担当。
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