働く女性が知っておきたい妊娠・出産・育児の制度
産後のめまいや立ちくらみが強い場合は勤務先に相談して健康診査に
更新日:2021年5月31日
自分では大丈夫だと思って復職しても、産後の体調不良が思わぬ形であらわれて悩む女性も少なくありません。もし復職後に産後の体調不良を感じたらどうすればよいのか、具体的な対処法や知っておくべき制度についてご紹介します。
産後に起こる心身の不調
妊娠や出産は、女性にとって命がけの大きな仕事です。この期間の身体の変化は肉体的にも精神的にも大変負担がかかるため、以下のような症状があらわれる人もいます。
- ・めまいや立ちくらみ
- ・イライラや極度の不安
- ・体のむくみ
- ・肌荒れや髪の毛のゴワつき
- ・便秘
一つひとつの症状はたいしたことがなくても、これらが一度に重なると女性にとっては大きなストレスとなり、産後うつにもなりかねません。産後に起こる心身の不調は、できるだけ小さなうちに対処することが大切です。
産後はなぜ疲れやすいのか
産後に疲れやすさを感じる人は多いですが、この大きな原因となるのが女性ホルモンです。女性ホルモンには、妊娠の手助けや月経の調節以外にも以下のような働きがあります。
- ・コラーゲンの生成を助けて肌に潤いやハリを持たせる
- ・血管を強くして動脈硬化などを防ぐ
- ・骨密度を保持する
- ・悪玉コレステロールを減らす
- ・物忘れを防ぐ
- ・体内の水分量を保持する
- ・髪を艶やかにする
このように、女性ホルモンにはさまざまな働きがあり、女性の心と身体の不調に大きく関係しています。
妊娠中の女性の体内では、妊娠を継続させるために大量の女性ホルモンが分泌されていますが、出産後はこの分泌量が急激に低下するため、ホルモンバランスが大きく崩れて疲れが出やすい状態になるのです。出産後の女性によく起こる「物忘れがひどい」「髪がゴワゴワする」「体が重くて動けない」といった症状も、女性ホルモンの急激な低下が原因です。
さらに女性ホルモンは、睡眠や脳の働きにも深く関わっています。そのため、出産後の急激な女性ホルモンの低下は不眠や情緒不安定を引き起こし、良質な睡眠で疲れを取ることを妨げます。
疲れやすく回復しづらい産後の状態を放置すると、さらにさまざまな不調を引き起こすことにもなりかねません。リラックスできる空間を整えたり、快眠グッズを利用するなど、良質な睡眠を取れるように心がけましょう。
めまいや立ちくらみはなぜ起こる?
産後の体調不良で多いのが、めまいや立ちくらみです。めまいや立ちくらみの原因で多いのは貧血や睡眠不足ですが、特に産後の女性は以下のような理由でめまいや立ちくらみを起こしやすくなります。
- ・授乳による貧血症状
- ・睡眠不足による疲れ
- ・女性ホルモンの低下による自律神経の乱れ
- ・過度のストレス
- ・忙しく食事の栄養バランスが崩れる など
仕事と育児に一生懸命な女性は自分の体調の変化に気づきにくく、気力だけで乗り切ろうとすることも少なくありません。しかし、産後は女性ホルモンの低下により心身ともにバランスを崩している状態なので、さまざまな不調が起こりやすくなります。睡眠・食事をきちんと取ることはもちろん、ストレス解消を心がけて過ごすことが大切です。
めまいや立ちくらみをそのまま放置してしまうと、更年期障害と似た状態が続き、さらに悪化する可能性があります。睡眠不足や栄養バランスを整え、できるだけ早く医師の診察を受けるようにしましょう。
少しでも体に違和感を覚えたら「健康診査」を受診しよう
産後の女性が感じる身体の違和感は、早い段階に対処することで大きく改善できます。しかし、すでに復職している場合、通院を後回しにしてしまったり、相談先が分からず戸惑ったりすることもあるでしょう。
厚生労働省は、男女雇用機会均等法第13条に基づき、妊婦および産後1年以内の産婦の体調不良に対し、各企業が適切な措置を行うよう指針を出しています。産後の体調不良を会社に申し出ることは女性労働者の権利であり、雇用している事業主は適切な措置を講じなければなりません。
産後の回復が思わしくなく復職後も違和感を覚えたときは、まず社内の人事部や産業医などに相談して早めに病院で受診し、検査結果をふまえて適切な措置を求めるようにしましょう。
産後1年以内の女性が医師から指示があった場合、健康診査のための時間を確保できます。一般財団法人、女性労働協会の調べによると妊娠中を含め産後に倦怠感・脱力感を訴える女性は4割、めまい・立ちくらみなどでも全体の3割を超えています。健康診査を受ける際は、事前に勤務先に伝えましょう。また指導を受けた場合には、必要な措置を受けることができます。(男女雇用機会均等法第12条、第13条)
症状が重い場合は「母健連絡カード」を職場に提出
すでに症状が重く、会社に一刻も早い措置を講じてほしいときは、「母性健康管理指導事項連絡カード」(以下「母健連絡カード」)を提出するのも有効です。母健連絡カードとは、現在の母体の状況と必要な措置を詳しく記載して会社に提出するための書類で、受け取った事業主はその内容に基づいて適切な措置を行わなければなりません。
母健連絡カードは、母子手帳に記載されている書式をコピーして使用できるほか、厚生労働省のホームページからダウンロードすることもできます。母健連絡カードは医師の診断書と同じ効力があるので、現在感じている身体の違和感や仕事上でどのような点がつらいと思うのかなど、細かく医師に伝えて書き込んでもらいましょう。
もし母健連絡カードを提出しても職場に適切な措置をしてもらえない場合は、最寄りの都道府県労働局に相談できます。産後の体調不良は一人で抱え込まず、制度を上手に利用して改善していきましょう。
産後の女性の身体は、完全に回復するまで1年はかかるといわれています。「妊娠前にはこれくらい平気だったから」と無理を続けてしまうと、取り返しのつかない大病にもなりかねません。育児も仕事も安心して続けるために決して無理はせず、少しでも違和感や気になることがあったら医師の診断を受けて、勤務先と相談しながらベストな環境を作っていきましょう。
監修者:社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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