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Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜

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掲載日:2015年11月2日
更新日:2020年8月24日

ビジョンやロールモデルはあえて持たない
「先が見えないこと」を楽しんでいたら発想が自由になり、可能性も広がった

約450万人以上のユーザーを持つ日本最大級の無料オンライン家計簿「Zaim(ザイム)」を運営する株式会社Zaimの代表取締役、閑歳孝子さん。出版社の記者、ITベンチャーのディレクターを経て、29歳で転職した3社目でエンジニアとしてのキャリアを本格的にスタートさせた異色の経歴の持ち主です。本職の傍ら、個人で開発したZaimが大ヒットし、起業を決めました。エンジニアへのキャリアチェンジの経緯や、ステップアップの道のり、Zaimを通じてこれから実現したいことなどを伺いました。

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株式会社Zaim 代表取締役閑歳 孝子さん

1979年生まれ。慶應義塾大学の環境情報学部を卒業後、株式会社日経BPでIT専門誌の記者・編集を経験。入社4年目に大学時代の友人の誘いでITベンチャー企業へ転職し、ディレクターとして自社パッケージの企画・開発に携わる傍ら、プログラミングの基礎を独学で身につける。2008年にITベンチャーの株式会社ユーザーローカル入社。新規Webアクセス解析ツールの企画・開発を担当する。並行して個人でもWebサービスの開発を進め、11年7月にZaimをリリース。翌12年9月に会社化し、代表取締役に就任。Zaimのほかにも、Twitter上のトレンド発言を集めた「ReTweeter!」や、写真のスライドショーサービス「Smillie!」など、これまでに手掛けたWebサービスは数多い。

~28歳の時~ エンジニアとしてアピールできるスキルがなく、手探りで始めた転職活動
友人とWebサービスを開発して実力を証明

環境情報学部で学んでいた大学時代からWebサービスに興味があり、仲間と一緒に今のSNSのようなコミュニティサービスを作ったことがありました。「こういうのを作りたい」というイメージを描くのが私の役目で、実際にプログラムをするのは別の友達。その友達が本当に天才的で、「私はとうてい戦えない世界だな」と圧倒されたのと、視野を広げたいという思いもあって、Web業界ではなく出版社を就職先に選びました。

IT専門誌の記者を務めていた3年半の間も、作る側の人間として通信やWeb業界に関わりたいという思いは強くありました。25歳の時に大学時代の友人に誘われて、Webサイトの受託開発をするベンチャー企業に転職し、ディレクションを担当。プログラミングを覚え始めたのはそのころです。「こういうものを作りたい」というアイデアはたくさんあるのに、当時の私は人の手を借りなければ形にできず、それがもどかしくて。それに、単純にインターネットが好きだったので、仕組みを知りたいという気持ちも強かったですね。社内のエンジニアに教えてもらいながら少しずつ覚えていきました。

何とか自分でプログラミングができるようなってきたのは28歳ごろです。ちょうどそのころ結婚したこともあり、「これからの20年30年、社会人として自分はどう振る舞っていくべきだろう」と考えていました。受託開発より自社サービスに携わりたいと思い、再び転職を意識し始めました。

当時、社内ではディレクターとエンジニアの中間のような立ち位置で重宝されていましたが、外に向けて「自分のスキルはこれ」と明言できるものがなく、転職活動は手探りでした。いくつかの企業に話を聞きに行ったりもしましたが、私自身のポジションがディレクターとエンジニアの中間というあいまいなものだったため、求人をしている企業のニーズにうまく当てはまらない。ただ一つ、自分の中で明確だったのは「私はものを作りたい」ということでした。だったら、ちゃんと作れるんだということを証明しようと心に決め、会社の仕事を続けながら、友人とWebサービスを開発。それで実績ができたので、企業でのエンジニアとしての職務実績は十分ではありませんでしたが、3社目の株式会社ユーザーローカルにエンジニアとして採用してもらえたのだと思います。

ユーザーローカルの伊藤将雄社長から受けた影響は大きいですね。「いかに多くのユーザーに支持されるか」「誰にでも使いやすいサービスにするか」に情熱を傾ける姿勢にとても共感しました

~28歳から今~ ネットに詳しくない人でも日常的に使えるサービスを
考えた末にたどり着いた「家計簿」というテーマ

Zaimの開発を個人的にスタートしたのは、ユーザーローカルに転職してから3年後のことです。ネットに詳しくない人でも日常的に使えるサービス、例えば、自分の母親がスマホを持った時に使ってくれそうなアプリを作りたいと思い、考えた末にたどり着いたテーマが家計簿でした。お金というのは、衣食住と同様に生活になくてはならないもの。さらに、家計簿を「家計の解析ツール」と考えれば、それまで携わってきたアクセス解析ツールの開発経験も活かせると考えたのです。私自身も家計簿をつけていましたが、集計のわずらわしさを実感していたことも、開発の後押しになりました。

会社の仕事を終えた後、自宅で夜中にコツコツと開発を進め、通勤電車の中でも作業しました。開発をスタートして約4カ月後の2011年7月に「Zaim」をリリース。今思えば短期間でよく作ったなと思います。手書きの構想レイアウトが今も残っているのですが、「こういうものができたらみんな喜んでくれるかな」と想像しながら開発するのはとても楽しかったです。

家計簿は家族のつながりを強め、家計と社会を結ぶツールとなる

Zaimを作り始めるまで、家計簿は一人で使うものという固定観念がありましたが、Zaimを夫婦で使っているというユーザーも多く、家計の状態が見えるようになったことで夫婦間のもめごとが減ったという声も寄せられています。また最近は、国や自治体の給付金を自動抽出する機能を新たに加えました。ユーザーが住む地域に合わせて、受け取れる可能性のある給付金を表示します。家計簿サービスは、個人で使うだけではなく、家族のつながりを強めたり、家計と社会を結びつけるツールとしての可能性も持っていると思うのです。今後は自治体などとの連携も図りながら、ユーザーにとってより分かりやすく、多様なライフスタイルに寄り添うサービスを目指して、小まめにアップデートをしていきたいと思っています。

ユーザーが450万人以上になった今も、寄せられる要望には極力目を通します。自分たちが「これはいいはずだ」と考えたものが、ユーザーにとってはそうでないこともあるので、そうしたズレを軌道修正するためにも、コミュニケーションは非常に重要ですね

~28歳の働く女性へのメッセージ~ ロールモデルや自分の強みは絶対に見つける”べき”ものではない
大切なのは心に余裕を持つこと

Zaimとして取り組みたいことはいろいろと膨らんでいますが、一方で、自分自身がやりたいこととなると、昔も今もほとんど持っていません。そもそも起業が目標だったわけではなく、Zaimのユーザー数が増えたので、きちんとサービスを提供していくために会社化したというのが起業のいきさつです。私の性格上、先のことが見えてしまうとつまらなく感じてしまうので、ビジョンや目標はむしろ持たないようにしています。Web業界に女性エンジニアはまだまだ少なく、ロールモデルもいませんが、特に気にしたことはありません。目指すべき対象がいないことで、かえって発想が自由になり、可能性が広がることもあるかと考えています。

自分の強みというのも同じで、「絶対に見つけるべきもの」ではないと感じています。幸いにも、今の私は寝食を忘れるほど夢中になれることが仕事になっていますが、自分が打ち込めるものを仕事にすることだけに価値があるとは思わないのです。「周りの人に喜んでほしい」「みんなが楽しくなるようにしたい」という思いが仕事のモチベーションになってきましたし、そういう思いを持てることも仕事においては大切ではないでしょうか。逆に「強みを見つけなければ」と思い詰めてしまうと、心に余裕がなくなり、働くことの意味や目的を見失いかねない気がします。

目の前のチャンスをつかむことがキャリアにつながる

二度の転職、起業といろいろな経験をしてきましたが、改めて思うのは、尊敬できる人や一緒にいて気持ちの良い人とともに働くのは心から楽しく、モチベーションも高く維持できるということ。仕事は一人ではできないので、なおさら、そうした人たちのそばに身を置くことは大切だと感じます。もし、今の環境では変化を望めないと思うのであれば、自分から手を挙げたり行動に移したりして、環境や状況を変えることが必要かもしれません。目の前のチャンスやきっかけを思い切ってつかんでみる。それが後々のキャリアにつながっていくことも多いのだと、私自身の経験から思います。

「身近にロールモデルがいなくて不安な人もいるかもしれませんが、無理に探さなくてもいいと思います。経験者や前例がないからといって、可能性が閉ざされるとは限らないからです」

今、28歳の自分にアドバイスをするとしたら?

自分の体のことをあまり気にかけていなかったので、「健康は大事」と言いたいですね。でもそれ以外は、何もアドバイスしない気がします。28歳から今まで、仕事で思い通りにいかないことやこうすればよかったということは多々あります。でも、今の私が考える正解を伝えたとしても、必ずしももっと良い結果になったとは限りません。あのタイミングであの人に会えていたから今の自分がある、という出来事も多かったので、当時の自分の行動をできるだけ尊重したいです。

編集後記

「先のビジョンは持たない」と独自のキャリア観を語ってくださった閑歳さん。エンジニアとしてのスタートが遅かった分、自らの技術力を証明したい一心で開発に打ち込んだという20代のエピソードが印象的でした。人との出会いや縁を大切にし、“予想のつかない将来”を面白がる姿に、閑歳さんの強さを感じました。

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