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Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜

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掲載日:2016年2月1日
更新日:2020年8月24日

自分自身で「どう歩くか」を意識し、大切にすることで、道順は違ってもやがて目指していた場所へと近づいていける

2010年4月に日本人8人目の宇宙飛行士として宇宙に滞在した山崎直子さん。ちょうど28歳のときに宇宙飛行士の候補者に選ばれ、実際に宇宙に飛び立ったのはそれから11年後でした。長い訓練期間中は、子どものころからの夢を一心に追い続ける一方で、結婚・出産を経験し、両立生活の困難さに悩んだ日々もあったといいます。仕事に向き合う上で大切にしてきたことや、宇宙に滞在した経験が自身の考え方に与えたものを語っていただきました。

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宇宙飛行士山崎 直子さん

1970年生まれ。96年東京大学大学院航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、NASDA(宇宙開発事業団、現・宇宙航空研究開発機構/JAXA)に入社。日本実験棟「きぼう」の開発業務に携わる。99年2月、NASDAより ISS(国際宇宙ステーション)に搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者に選ばれ、同4月より基礎訓練に参加。2001年9月に宇宙飛行士として正式に認定される。10年4月、スペースシャトル ディスカバリー号による15日間のミッションに参加。ロードマスター(物資移送責任者)を務めたほかISSやスペースシャトルのロボットアームの操作などを担当。11年8月にJAXAを退職後は、内閣府の宇宙政策委員会委員や大学客員教授などを務める。著書に『何とかなるさ!』(サンマーク出版)、『瑠璃色の星』(世界文化社)、『夢をつなぐ』(角川書店)などがある。

~28歳の時~ 開発チームの一員として仕事に没頭していた20代
宇宙開発に携わるたくさんの人々の思いに触れたことが財産に

宇宙に関わる仕事がしたいという思いから、大学院で航空宇宙工学を学んだ後に26歳でNASDA(現JAXA)にエンジニアとして入社しました。大学院時代に宇宙飛行士の選抜試験に応募したのですが、そのときは書類審査で不合格に。選抜試験は不定期に行われるため、NASDAで働きながら機会があれば再び挑戦しようと考えていました。NASDAでは、ISS(国際宇宙ステーション)に搭載予定の日本実験棟「きぼう」の開発や設計などに携わりました。そして入社3年目、待ち望んだ試験が実施されることに。約1年に及ぶ選考の過程を経て、候補者に選ばれたという連絡を受けたのは28歳になって2カ月が過ぎたころでした。

1年にわたる選抜試験の間もずっと、NASDAでは開発チームの一員として普段通り業務に就いていたので、当時を振り返ってみると、宇宙飛行士のことはほとんど頭にないくらい、とにかく働いていましたね。限られた予算とスケジュールの中で「きぼう」の試験作業や、ISSの新しい実験棟の検討として必要なシステム要件の定義を一つ一つ進めていた時期。開発に関わるたくさんのメーカーの担当者とやりとりをしたり、NASA(アメリカ航空宇宙局)側と調整を行ったりと毎日がとても慌ただしく、筑波宇宙センター内の所属部署で一日の最後まで残って仕事をすることもありました。

ときにはタフな調整やネゴシエーションも求められる仕事でしたが、ものづくりでISSを支えているメーカーの方々の、宇宙開発への強い意気込みや高度な技術力を目の当たりにすることができたのは、とても貴重な体験だったと改めて思います。後に訓練を経て実際に宇宙へと飛び立つことになったとき、そうしたたくさんの人々の思いを胸に刻んで、ミッションに臨むことができたからです。

「選抜試験の最終選考に残っていたのは8人。誰に決まってもおかしくないと感じていたので、候補者の一人として選ばれたと連絡を受けたときは本当にうれしかったですね。『頑張ろう』と気持ちを新たにしたのを覚えています」

~28歳から今~ 優先順位を判断して対応することの重要性は
「子育て」も「宇宙の仕事」もまったく同じ

候補者に選ばれた2カ月後から訓練が始まりました。初めの2年半は基礎訓練を集中的に行い、その後は、先輩宇宙飛行士を地上からサポートする業務やルーティンワークなどに当たる傍ら、合間を縫って訓練を重ねていく生活に入りました。長女を妊娠したのはそれから間もないころです。もともと、基礎訓練を終えてから宇宙に行くまでのどこかのタイミングで子どもを産めれば、と考えていました。妊娠・出産によって自分だけ訓練が遅れてしまう不安もありましたが、NASAでは出産を経て訓練を続けている女性宇宙飛行士の先例もいくつかあり、実際に経験者からアドバイスを受けたりもしました。JAXAでは私が初めてのケースでしたが、3ヶ月の育児休暇中も定期的に語学研修の機会を設けてもらうなど、さまざまな調整をしてもらえたことはありがたかったですね。

子育てを通してマルチタスクの経験を積む

育児休暇が明けて復職し、再び訓練と業務を続ける生活に。宇宙飛行士の訓練はアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダなど各国を転々としながら実施され、その都度指示が出るため、自分が数カ月後にどこにいて何をしているかの見通しも立ちません。訓練の都合で、ある時期は父子家庭、またまたある時期は母子家庭の状態になり、家族や子どもにしわ寄せが行ってしまうことに悩みながら試行錯誤が続きました。その一方で、子どもを持ったことで教えられたり力をもらったりしたことも多くあります。子育てはハプニングがつきもので、その都度いかに優先順位を判断し、対応するかが重要になりますが、これは宇宙の仕事もまったく同じです。また、宇宙空間では一人がいくつもの仕事を担うため、子育てを通してマルチタスクをこなす経験を積めたことは役立ちました。

2010年4月、スペースシャトル ディスカバリー号に搭乗し、ISSを含めて15日間宇宙に滞在しました。ISSは90分で地球を1周するので、45分ごとに昼と夜が入れ替わります。夜から昼に変わる瞬間、地球を包む大気の層が太陽光を受けてほんの数秒間だけ虹色に美しく浮かび上がった光景は今も鮮やかに焼き付いています。地球が青く丸いこと、宇宙は無重力であることなどを、私たちは知識として知っています。ただ実際にそこに身を置いてみると、あらゆることが理屈ではなくすとんと体に入ってくる感じがあり、それはとても強烈な印象として残っています。

「宇宙から地球に戻ってきたとき、辺りに吹く風や、漂ってくる緑の香りをとても心地良く感じました。それまで見慣れていた景色や日常が、当たり前ではなく、かけがえのないものだと感じるようになったこと。それが一番の気持ちの変化かもしれません」

~28歳の働く女性へのメッセージ~ 人生は思い通りにならないことも多いけれど
その経験が後になって大きな価値を持つこともある

NASDAで「きぼう」の開発チームに所属していたことをお話ししましたが、実は私は大学院時代の経験を活かして研究部門で働きたいと思っていました。つまり希望とは異なる部署でキャリアをスタートすることになったのですが、振り返ると開発チームでの経験はすべてが貴重で、あのとき希望が通らなかったことに今はむしろ感謝しています。もしかするとみなさんの中にも、今いる環境が希望とは違っている人がいるかもしれませんが、それで投げやりな気持ちになってしまうのはもったいないと思います。今の環境や経験が、後になって大きな価値を持つこともあるのだと知ってほしいですね。

どの部署でどんな仕事に携わるか(What)という部分は、外からの要因や運によるところも大きく、自分の意思だけで決められるものではありません。それに対し、どのような気持ちで仕事に向き合うか(How)は、自分自身でコントロールすることができます。このHowの部分に意識を集中し、今いる環境で周りから謙虚に学ぶ姿勢を持つことで、人は必ず成長できるはずです。環境は違っても、人とのかかわり方や、コミュニケーションの大切さなど、学ぶべきことは実は普遍的なもの。今が希望通りの場所ではなくても、そこでの「歩き方」を大切にすることで、やがて自分がもともと希望していた道へと近づいていくのではないでしょうか。

答えのない悩みでも自分自身で決めることが大切

ときには答えの出ない悩みに直面することも、人生にはあると思います。私も訓練生活と家庭との両立で悩みましたが、そこに正解はありませんでした。答えがない中でも、自分の選んだ道を、あとで振り返って「これで良かったんだ」と思えるようにしていくしかない。そのためにも、いろんな人に相談をしたりアドバイスを受けたりしながら、最後は必ず自分自身で「私はこう歩くんだ」と決めることが大切だと思います。

無重力の宇宙では「上」も「下」もないように、日常で「当たり前」と感じていることが、見方を変えればまったく違ってくることもあると思います。可能性を自分で狭めず、多面的にものごとをとらえることを大切にしてほしいですね。私の宇宙での経験がそのための何かのヒントになればという思いで、講演や執筆をしつつ、宇宙教育の活動にも力を入れています。

「民間宇宙旅行も遠くない将来に現実のものになると言われています。私の今の目標は、宇宙のことを多くの方に伝えることで、宇宙をもっと身近なものにしていくこと。そして皆が宇宙に行ける時代にすること。私自身もいつかはまた宇宙に行きたいと思っています」

今、28歳の自分にアドバイスをするとしたら?

「失敗を恐れずに挑戦して」「苦労は買ってでもするべきだよ」と伝えたいですね。年齢を重ねるに従って、チャレンジ精神が薄れてきたり、失敗したときのダメージを恐れて最初から回避したりしてしまう。でも、失敗しても周りが教えてくれる20代こそ新しいことに挑戦すべきで、それは後から必ず活きてくると思います。それともう一つ、訓練と家庭の両立に悩んでいたかつての自分に言いたいのは「まずは相談しよう」ということ。相談して解決するとは限らないけれど、少なくとも一人で抱え込むよりも、少しでも前に進めるはずだと思うからです。

編集後記

世界各国を転々とする訓練生活の中でも、家族の存在は夢へと挑戦する大きな支えだったという山崎さん。「喜びや悲しみを全身で力いっぱいに表す子どもを見て、一生懸命であることの尊さを教えられた」というエピソードも。穏やかな物腰と笑顔で、丁寧に言葉を紡ぎながら質問に答えてくださる姿がとても印象的でした。

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