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Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜

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掲載日:2016年6月20日
更新日:2020年8月24日

過去の自分が何に悩み、どんな思いで決断したのか
その記録の積み重ねが、未来へ向かう支えになる

日々の暮らしを心地よくする選りすぐりの道具を販売し、充実した読みものコンテンツも人気を集めるネットショップ「北欧、暮らしの道具店」。ショップを運営する株式会社クラシコムの取締役でもある店長・佐藤友子さんは、商品の紹介に加えて、多様なライフスタイルやワークスタイルの提案も積極的に行っています。20代のころは「自分らしい生き方」を暗中模索して職業を転々としながらもがき続けたという意外な過去も。迷いの日々に自ら終止符を打った28歳での転機とは。

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「北欧、暮らしの道具店」店長佐藤 友子さん

1975年、神奈川県生まれ。インテリアコーディネートの仕事を経て、2006年に兄の青木耕平さんと株式会社クラシコムを共同創業。07年9月、北欧雑貨をはじめとする暮らしの道具を取り扱うネットショップ「北欧、暮らしの道具店」をオープンし、店長に。開業以来、サイト上の商品・読みもの・サービスの分野を統括している。関連事業のフードブランド「KURASHI&Trips」のブランドマネージャーも兼任。5歳の男の子を育てるワーキングマザーでもある。
ネットショップ「北欧、暮らしの道具店」

~28歳の時~ 自分らしい生き方を探し求めるも
どんな仕事が向いているか分からず苦しんだ20代

思えば20代は、壮大な迷いの時期でした。「自分らしく生きていきたい」「人に何か良い影響を与えられる仕事がしたい」という思いはずっと強く持っていたけれど、それが何かが分からなかったんです。どんな仕事が自分に向いているのかも見当がつかず、いずれ転職する前提で派遣社員やアルバイトを選んで、接客業やオフィスワークなどいろいろな仕事を経験しました。社会人向けの学校にも通い、英国式リフレクソロジストの資格も取りました。それでも、「これだ!」と思えるものはなかなか見つからず、苦しかったですね。27歳ごろにある会社の面接を受けた時、私の履歴書に目を通した面接官に「やる気だけは感じられるけれど、何をやりたい人なのかさっぱり分からない」と言われて。自分では生き方についてすごく真面目に考えて、道を探しているのに、理解してもらえない。悔しくて帰りの電車で涙が止まらなかったのを覚えています。

転機は28歳で結婚したことです。生まれ育った家庭以外で初めて「自分の居場所」を持てた安心感が、私に変化をもたらしました。それまでの私は転職を繰り返しながらも、「本当に好きなことを仕事にする」という選択肢と真正面から向き合うことはせず、少しずらしたところばかり選んでいました。本当に好きなことに挑戦して失敗するのが怖かった…。要は逃げていたんですね。家族という一つの芯が自分にできた今、逃げるのはやめて「本当にやりたいフィールドでちゃんと勝負しよう」と、考えがパッと切り替わったんです。

そして選んだのが、子どものころからずっと好きだったインテリアの世界でした。実績も何もない私を採用してくれたインテリアデザイン事務所の社長には本当に感謝しています。そこに至るまでに、私が「あれでもない」「これでもない」と脈絡なく積み重ねてきた職歴を、引き出しの多さとしてプラスに評価してくださった初めての人でした。

生き方、働き方に迷っていた28歳のころに読んで影響を受けた本が、所由紀著『偶キャリ』。「予期せぬ偶然が重なった結果としてつくられるキャリアもある、という内容にすごく励まされました」

~28歳から今~ 北欧のライフスタイルに直に触れたことが
「北欧、暮らしの道具店」を開くという選択につながる

入社後はクライアントであるハウスメーカーさんと遣り取りしながら、モデルハウスを造る仕事に関わりました。仕事はハードでしたが、望んでいた世界で働ける充実感でいっぱいでした。真冬の寒さの中、深夜までヘッドランプをつけて床にはいつくばって作業をしたことも。それ以前は、頭の中であれこれ悩んで、“もがいている”ふうを装っていたけれど、決して自分を崩さずにいられる場所にいたことに気付かされました。時間はかかりましたが、ここまで来られたんだ、と自信になりました。一つのキャリアを何十年と突き詰めている女性の先輩や上司の姿を間近で見られたことも刺激は大きかったですね。その一方で、私はこの道で続けていくことはできないかもしれないという不安も徐々に膨らみました。この先5年・10年と走り続けられるほどの強い動機が、自分の中には見いだせなかったのです。手掛けていたのがモデルハウスだったことも、「実際に生活する人からもっとダイレクトに反応を返してもらえる仕事がしたい」という思いにつながりました。

次の転機は31歳の時。夫が仕事で2週間スウェーデンに滞在することになり、北欧デザインに興味があった私も休暇を取って同行しました。北欧の人々のライフスタイルに直に触れた2週間は、驚きの連続でした。夕方6時頃になるとオフィスには誰もいなくなり、自宅で家族そろってキャンドルを灯して夕食を楽しむ。それが彼らにとって「ごく当たり前の日常」であることがまず衝撃でした。同じ地球上で、同じ時代に生きているのに、日本ではその生活にまったく手が届かない。悔しさがこみ上げると同時に、はっきりと自覚しました。「私がやりたいのはインテリアじゃない。もっと奥にある、人の暮らし方や働き方に関わる何かなんだ」と。

数カ月後に、今度は兄と再び北欧を訪れる機会があり、結果的にその旅が、兄妹で北欧雑貨のネットショップ「北欧、暮らしの道具店」を開くという選択につながりました。うまくいく保証など何もない、無謀とも言える挑戦でしたが、時の運に恵まれました。当時は映画『かもめ食堂』が公開され、北欧ブームが日本で起こり始めたタイミング。北欧雑貨を探し求める人は多く、オープンした初日に、用意した商品がほぼ売り切れてしまったほどです。半年後、インテリアデザイン事務所を辞めて、この仕事に専念しました。

「なぜ雑貨を売っているのか」 出産を機に、その本当の意味を再認識する

北欧雑貨の販売からスタートした「北欧、暮らしの道具店」ですが、4年ほど前から、プロダクトを販売するだけでなく、働き方を含めた暮らし全体にフォーカスしたコンテンツを充実させるなど、サイトのメディア化に力を入れてきました。そのきっかけとなった出来事が、出産です。すべてが子ども中心の生活へと一変し、自分を見失いそうになる中で、お気に入りの食器や鍋を手にしている瞬間だけ、心を取り戻せるような感覚になりました。自分自身のメジャー(ものさし)を取り戻すような感覚を味わったんです。好きなものがそばにあることがどれほど心の支えになるのか、自分たちが「なぜ雑貨を売っているのか」その本当の意味を再認識することになり、これらをもっと積極的に発信したいという思いが強くなったのです。暮らしをより楽しくするためのアイデアに加えて、人の感情や悩みに寄り添った読みものや、育児中の読者の方と一緒に「お互い大変なこともあるけどがんばろう」と励まし合えるような特集をこれからも届けていきたいと思っています。

クラシコムが掲げるビジョンは「フィットする暮らし、つくろう」。「それは『北欧、暮らしの道具店』の編集方針でもあります。コラムや特集を通して私たちが伝えたいのは、他人との比較ではなく自分自身のものさしで、満足する暮らしをつくりましょう、というメッセージなんです」

~28歳の働く女性へのメッセージ~ 何が正しい選択かは誰にも分からない
自分の正直な気持ちと向き合い前に進むことを恐れずに

振り返ってみると、結婚したこと、インテリアの道に進んだこと、会社を休んで北欧を旅したこと、そのどれもが現在につながる大切な転機でした。でもそれはすべて、今になってみて分かること。岐路に立っているその瞬間は、どの選択が正しくて、何が間違っているのかなんて、本人にも周りにも分からないものです。私たち兄妹も、ショップを立ち上げる際の、周囲からの意見は「ネットでものを売るなんてうまくいくわけない」という厳しいものばかりでした。もしその忠告に従っていたら、今の私はありません。結局のところ、自分の人生の責任を持つのは自分だということ。何を選んでも自由であると同時に、結果を引き受ける覚悟も必要だと思います。

自分らしい生き方や働き方をかなえるには、自分自身と向き合うことが必要

私が20代から続けてきて良かったと思うのは、日記をつける習慣です。読んで心を打たれた文章や、テレビで耳に残った言葉、その時の自分の悩みやモヤモヤした気持ちまで、すべて記録してきました。読み返すと思い出がよみがえって苦しい気持ちになりますが、その記録があるから、当時の私がどんなことを思って選択をしてきたのかが分かります。心の中の迷いやモヤモヤを言葉にして書きとめることは、自分を直視する行為であって、楽なことではありません。でも、自分らしい生き方や働き方をかなえたいと願うならば、自分自身と向き合うことは避けて通れないと思います。大切なのは、自分の弱いところに目を向けるだけでなく、自分の「好き」からも目をそらさないこと。強み・弱み、快・不快も含めて、今の自分をしっかりと知ることは、20代に限らず、前に進むためにとても重要なことだと思います。

書くことは、いわば点を打つこと。いくつもの点がやがて線へとつながり、未来の自分を支える糧になります。それは、暮らしの中で一つひとつ大切に選んでそろえた道具や雑貨が、後で振り返って、自分自身に立ち返るためのよりどころなるのと似ているかもしれません。この先、次の岐路に立った時に、これまでのさまざまな瞬間を書きとめた文章は、自分だけの心強い「過去問題集」として、大切なヒントを与えてくれると思います。

「日記の形でなくても、例えばFacebookに自分だけが見られる設定で投稿するのもおすすめです。過去の同じ日の投稿が自動表示される機能もあるので、振り返るきっかけになりますよ」

今、28歳の自分にアドバイスをするとしたら?

自分探しを続けていたころはずっと「私の本当の価値はどこかにあるはず」という根拠のないプライドがあった気がします。そのプライドをいったん捨て去って、一歩を踏み出した28歳の私を「グッジョブ!」と褒めたいですね。40代になった今も「ここでプライドを捨てないと!」と、あのころと同じように反省させられる場面は多々あります。プライドを崩す、という作業はこの先何歳になってもきっと繰り返し必要になるのだと思います。その都度、立ち返る場所として28歳の自分がいる。それは、幸せなことかもしれません。

編集後記

20代での紆余曲折の自分探しや、北欧の旅で受けた衝撃など、情景が目に浮かぶようなエピソードの数々に引き込まれました。その時のご自身の気持ちも併せて、記憶が今も色あせずに鮮やかなのは、きっと細やかに記録をつけてこられたからこそ。言葉にして書きとめておくことの大切さを、改めて教えていただきました。

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