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Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜

Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜 Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜
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掲載日:2016年8月8日
更新日:2020年8月24日

自分という限られたリソースの中で目的(What)と手段(How)を磨き
前に進んでいくことこそが、私にとってのキャリア

社会に変革を起こし、インパクトを生み出そうとする起業家やチェンジメーカーのためのコミュニティ「Impact HUB Tokyo」。共同創設者で代表取締役の槌屋詩野さんは、2013年2月の開設以来、多くの起業家たちとコミュニケーションを深める中で、自らもさまざまな刺激を受けてきたと言います。今に至る道のりを振り返る槌屋さんの口から飛び出したのは、「『社会人』という定義が私の中にはない」「キャリアとは何なのか今も疑問」という率直な言葉の数々でした。

株式会社HUB Tokyo 代表取締役槌屋 詩野(つちや・しの)さん

1979年生まれ。東京大学在学中に国際協力NGOでボランティアを始め、同大学大学院に進学後も活動を継続。卒業後、株式会社日本総合研究所に入社し、創発戦略センターの研究員として環境・社会的責任投資(SRI)分野におけるイノベーションリサーチを経験。その後、途上国および欧州で日系企業のソーシャルビジネスのコンサルティングに携わる。東京に戻った2012年に起業し、翌13年2月、ソーシャル・スタートアップのコミュニティ、Impact HUBの東京拠点「Impact HUB Tokyo」を設立。起業家育成プログラム「Team360」をスタートするなど、社会にインパクトを起こそうとする起業家たちの最初の一歩を踏み出す手伝いをしている。

~28歳の時~ 「学生から社会人になる」という認識はまったくなかった
頭にあったのは「どんな仕事を自分でつくりだすか」

私が世間で言うところの「社会人」になったのは、大学院を卒業し日本総合研究所に入った26歳の時です。こういう表現をするのは、私の中に「社会人」という定義自体がなく、「学生から社会人になる」という線引きは無意味だと感じていたからです。というのも、学生時代からすでに国際協力NGOでインターンとして精力的に働いていたし、そもそも人は生まれた時から社会と接点を持っている。だから「ここから社会に出る」という認識はまったく持っていませんでした。

さかのぼって就職活動でも、私の頭にあったのは「どの会社に入るか」ではなく「どんな仕事を自分でつくりだすか」。自分で事業を始めることも考えましたが、個人でシンクタンクを経営する父から「お客さんがいなければ事業をしても意味がないよ」と言われて、それもそうだなと。まずは、顧客を自分で見つけられるだけのスキルを磨こうと考え、関心を持っていたソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)に携われそうな日本総研を選びました。

入社前からBOPビジネス(途上国の低所得層向けビジネス)に関わることを希望していましたが、該当する部署が社内になく、配属された創発戦略センターでは、「私はこういうことがやりたい」とずっと意思表示を続けていました。良かったのは、新入社員のそうした発信を誰も嫌がらず、平等に扱ってくれるカルチャーがあったこと。働き掛けを続ける中で、次第に周りが動き始め、初めて名指しで私に仕事の依頼が入ったのが、ちょうど28歳ごろです。途上国の農村で持続可能なビジネスについてのマーケティングリサーチを行う仕事でした。ごく小規模な案件からスタートし、成果を示していくうちに次第に社内で認めてもらえるようになり、チーム体制が整っていきました。

成し遂げたいこと(What)への思いの強さが自分の武器だと気づく

当時、私が考えを整理する足掛かりにしていたのが、WhatとHowです。Whatは自分が成し遂げたいこと。Howはそのためのスキルです。私のWhatは「社会に変革を起こす大きな流れの一部でありたい」ということ。学生時代から今に至るまで変わっていません。まずHowを武器として磨き、Whatが何であっても対応できるような「スキルの専門家」になる、というのも方法の一つだと思いますが、私はそれを選びませんでした。なぜなら私の場合、Whatに対する思いの強さこそが、自分の武器だと気づいたからです。Whatへの思いがとても強いから、いつしか周りが巻き込まれ、ものごとが前に進んでいく。何より、Whatが起点でなければ、何かをしたいという動機も、続けていくモチベーションも私の中には生まれません。それは今も同じです。

BOPビジネスに関心を持ったのは、大学院卒業直後にバックパッカーとして南米を旅して回った時。「貧しい村にソーラーパネルが設置されているのを見て、私もこの先こんなプロジェクトに関わりたいと考えるようになりました」

~28歳から今~ 自分のやりたいことが既存の職種に当てはまらないのなら
誰とも違う自分の人生を生きるだけ

2009年からは日本総研ヨーロッパ研究員として、ロンドンを拠点にアフリカやインド、東南アジア、中国の農村部などを訪れ、BOP市場のリサーチに携わりました。その過程で、2005年にロンドンで始まったグローバルなネットワークである「Impact HUB」を知ったのです。それまで仕事を通じてさまざまな起業家と交流する過程で、優れた起業家が多く輩出される都市や地域には、良いコミュニティが存在しているという実感がありました。そうした誰もがアクセスできるフラットな起業家コミュニティやネットワークが日本にも必要だと感じ、帰国した2012年から準備を始め、翌13年2月に「Impact HUB Tokyo」を開設しました。

現在、メンバーは約150人を数え、それぞれが取り組む事業の内容は実に多様です。「こんなビジネスをよく考え出すなあ」と感嘆するようなものもたくさんあります。「Impact HUB Tokyo」を立ち上げてからのこの3年間で、私自身にも変化があったと感じます。異なる考え方や価値観をより柔軟に受け入れられるようになり、また、自分の中にある「What」と、現実的な「事業」とのバランスも次第にとれるようになってきました。私と同じように悩む起業家たちとここで話をし、自分の考えを言葉で表現することで、思考が整理されてきたのだと思います。

「私は私の人生を生きるしかない」というキャリアプラン

「槌屋さんのこれからのキャリアプランは?」と尋ねられることもありますが、そもそもキャリアとは何を指すものなのか、よく分からないというのが本音です。今の私は事業主で、昇進もなければ、ハシゴを上っていくようなキャリアのイメージもありません。振り返れば27、28歳のころ、「私はこれから何になりたいか」を自問したことがあるのですが、出した答えは「私は私の人生を生きるしかない」ということ。自分のやりたいことが既存の職種のどれにも当てはまらないのであれば、その名前のない何かに「槌屋詩野」というラベルを張って、それを目指せばいいと思ったのです。

「Impact HUB Tokyo」で事業に取り組む起業家の皆さんを見ていると、さまざまな失敗や成功を経て「自分を知る」というプロセスがあり、その過程で自身のWhatやHowが吟味されていく様子が分かります。事業がどんどんブラッシュアップされ、メンバー同士のさまざまなコラボレーションが広がっていくなど、その変化は見ていてとても面白いですね。仕事をするということは、つまり、自分という限られたリソースを使い、どれだけ価値を生み出せるかということ。WhatとHowの両方を磨き続けながら、自らが最も社会に役立てる方法を探り、前に進んでいく。それこそが「キャリア」なのかもしれないと今は考えています。

目黒区の印刷工場跡地に開設された「Impact HUB Tokyo」。起業家や企業内起業家、フリーランスなど多様な人々が集い、交流やコラボレーションが生まれている。440平方メートルの広々としたフロアでは、ワークショップや勉強会なども多数開催される。

~28歳の働く女性へのメッセージ~ 新たな挑戦に伴うリスクよりも
何もしないことのリスクの方が大きい

今の仕事や自分のこれからのキャリアについて、「これでいいのだろうか」と漠然とした不安や迷いを持っている人もいるかもしれません。そんな人たちにまず気づいてほしいのは、そのもやもやを生み出しているのは、自分自身だということです。自信がない、踏み出すことが怖い、などの理由で、自分の能力に制限をかけているのは、自分自身にほかなりません。そして、もやもやを感じているということは、自らに制限をかける自分と、「本当はもっとできるはず」と思っている自分との間で、葛藤が起きているということ。一度、自分にとって居心地の良い場所から出て、「怖いな」と思っている方向にあえて飛び込んでみることを私はおすすめします。そうすると、怖いと思っていたことが、実はそうではなかったと気づくかもしれない。その瞬間、制限をかけていたそれまでの自分はフッと消え去るはずです。

居心地の良い場所を出て、何かを新しく始めようとする時、当然何らかのリスクも伴うでしょう。ですが、何もしないことにもリスクがあると知ってほしいのです。もしもリスクを恐れて何も行動を起こさず、それで貴重な時間や人生を無駄にしてしまうのなら、そのリスクの方がよほど大きいと私は思っています。

自分を否定せず前向きな気持ちを大切に

もう一つ重要なことは、今の自分を否定しないこと。とりわけ日本の女性は、自己肯定感が低くなりがちです。自分で自分を否定し続けている限り、いくら場所を変えたとしても、根本的なストレスはなくなりません。「持つべき経験やスキルは、今の自分にきちんと蓄積されている」と自分自身を認めてあげた上で、「その能力を開花させる場所を探しに行こう」と考えてみる。そんな前向きな気持ちを大切にしてほしいですね。

「周囲から向けられるさまざまな期待や『こうあるべき』というレッテルが、20代後半の人たちの苦しみのもとになっているようにも感じます。それらを一度すべて取り払い、自分が本当は何をしたいのか、心の奥にあるWhatに向き合うことも大事だと思います」

今、28歳の自分にアドバイスをするとしたら?

当時の私は、自分の力をどうにかして証明しなければという焦りから、常に肩に力を入れ、働き過ぎていたと思います。もしあの時、誰かにひと言「あなたはそのままでいいよ」と言ってもらえたら、もっと楽になれたはず。だから、当時の自分に声を掛けるなら「そのままでいいから。働き過ぎないで」と言いますね。成長志向を強く持つことは、裏を返せば「今の自分ではダメだ」と一生思い続けることになり、自分を追い詰めてしまいやすい。まずは今の自分を認めてあげることが、前へと進む一歩かもしれません。

編集後記

私たちが“当たり前”と捉えがちな社会の既成概念に疑問を持ち、自らのWhatを追求し続ける槌屋さん。「世の中に今ある職業の中から仕事を選ぶ、という概念が私にはないんです」という一言が印象的でした。「社会人」や「キャリア」といった、これまで何気なく使ってきた言葉一つひとつを改めて考え直す機会になりました。

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「自分らしいキャリアを生きる」先輩からのメッセージ

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