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Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜

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掲載日:2016年7月25日
更新日:2020年8月24日

肩書にとらわれず、自分が果たすべき役割に集中
見えてきたのは“自分らしい”リーダーシップのあり方

サードウェーブコーヒーの代表格として注目を集めるアメリカ・サンフランシスコ発の「ブルーボトルコーヒー」。その日本法人の取締役を務める井川沙紀さんは、入社7カ月でこのポストに抜擢されました。自分の素直な興味や直感の赴くままに、キャリアチェンジを重ねながら経験を積んできた井川さんですが、20代後半はワーク・ライフ・バランスに悩み、仕事をセーブする選択を考えた時期もあったといいます。そこで行き着いたのが、「自分らしく、やりたいことをやろう」というシンプルな答えでした。

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ブルーボトルコーヒージャパン合同会社 取締役井川 沙紀さん

1980年兵庫県生まれ。新卒で大手人材派遣会社に入社し、3年間で2度の新規事業の立ち上げに携わる。その後、ベンチャーインキュベーション会社を経て、2010年にプレッツェルジャパン株式会社に社員1号として入社。アメリカのソフトプレッツェル専門店「アンティ・アンズ」の日本展開における広報・PR、販促、採用などを担う。13年、丸亀製麺を全国展開する株式会社トリドールの子会社に転職し、ハワイでのレストラン事業展開に従事。14年11月にブルーボトルコーヒージャパン合同会社に広報・人事マネジャーとして入社。15年2月に海外初出店となる「清澄白河ロースタリー&カフェ」、3月に「青山カフェ」がオープン。同年6月に取締役に就任。16年3月には3店舗目となる新宿カフェがオープン。

~28歳の時~ 結果を出すためにがむしゃらに働いた20代
ベンチャーにおける広報業務の重要性を実感

4度の転職を経て、今のブルーボトルコーヒーで5社目になります。これまで長く広報・PRの分野でキャリアを積んできましたが、広報の仕事に最初に出合ったのは、人材派遣会社を経て転職した2社目のインキュベーション会社でした。投資先の企業や事業の広報に関わることで、その事業価値を高めるというのが私に課せられたミッションでした。外部のPR会社と契約して一から広報を学びながら、投資先6社と自社の広報を担いました。投資先はITベンチャーから、医療、旅行、ジュエリーなどさまざま。業種の異なる企業の広報・PRを一度に経験できたことは貴重な経験でした。

28歳というと、その会社で3年ほどがたち仕事の面白さを感じていたころです。広報の仕事というのは一般的に、メディアに取り上げられた数やその広告換算で成果を判断されますが、価値はそれだけではないと気づき始めました。例えば、知名度のないベンチャー企業が新聞や雑誌に取り上げられることで信用が高まり、営業が契約をとりやすくなることもあります。ベンチャーにおける広報業務は、ビジネスを軌道に乗せる上でもとても重要な意味を持っていると学んだのです。

ワーク・ライフ・バランスよりもベンチャーの道を突き進むことを優先

一方で、28歳当時の、ワーク・ライフ・バランスは良くなかったですね。入社当時は職場で最年少だったこともあり、発言力を高めるためには結果を出し続けなければと考えていて、無我夢中で働いていました。私は完璧主義なところがあり、常にその環境において自分の最大限の力を出したいと考える性格なんです。今後のライフイベントの可能性を考えると、このまま忙しい環境に身を置くのは良くないのかもしれないと不安になり、プライベートを優先できる仕事に転職しようと面接を受けたこともあります。でもその迷いは、自分の正直な気持ちを見つめ直したことで吹っ切れました。私はスタートアップが好きで、ベンチャーが好き。先のことを不安に思ってキャリアにブレーキをかけるよりも、この道を突き進もうと決めました。

当時の私は、投資先企業ですでに決定している商品やサービスについて、外から広報をお手伝いする立場で、すでに商品・サービスの詳細やリリースされる時期が決定しているものをお手伝いするにとどまっていました。そのような関わり方をする中で、もっと商品・サービスの企画初期段階から関わり、リリースする時期や内容のアドバイスからできれば、より効果的な露出につなげられるのではないかと考えるようになりました。次は私自身がスタートアップの一員として広報に携わりたいと決めて、2度目の転職を選びました。

「20代でがむしゃらに働いてキャリアを積んだのは、今後ライフイベントを経験しても、職場から『必要とされる自分』でありたいという思いもありました。当時、別の会社で働く大学時代の友人たちから『職場に気兼ねして妊娠を報告しにくい』などの話もたびたび耳にして、女性活躍における建前と現実の違いを感じていました」

~28歳から今~ 過去2社での経験と知見をフルに活かしながら
ブルーボトルコーヒー日本1号店の出店に向け奔走

3社目では、海外のプレッツェルチェーンの日本展開に携わり、立ち上げ社員として出店戦略やメニュー、価格の決定などを幅広く担当。国内店舗数ゼロからスタートし、在籍した3年半で16店舗まで拡大することができました。次の4社目では逆に、日本の飲食ブランドの海外展開というミッションで1年間ハワイに移住し、現地でのレストラン立ち上げに携わりました。

そして、ブルーボトルコーヒージャパンにPRと人事のマネジャーとして入社したのが2014年の秋。ライセンス契約ではなく、100%子会社の日本支社をつくるという点に興味を持ったのがきっかけです。働き始めてみると、過去の経験が予想以上に活きました。本国のチームにどのように進捗報告をすれば、相手の不安心理を減らして納得してもらいやすいかなどは代表的な例。他にも、ハワイでのレストラン立ち上げ時に、日米の雇用に関する法律やカルチャーの違いを体感していました。今回もその点がネックになることが予想できたので、溝を埋めるために先手先手で本社に対応を働きかけることができました。

2015年2月に日本1号店の「清澄白河ロースタリー&カフェ」がオープンし、その年の6月に、入社から7カ月で取締役に就きました。日本の企業ではまずありえない異例の人事だと思います。それまで出店に向けて準備を重ねる過程で、次第に任されることが増えて「何でもやっている」状態となり、「だったらそのまま代表に就けばいいじゃないか」と打診されたのです。年齢や性別、過去の経歴などにとらわれない、この会社の社風が表れていると思います。とはいえすぐには決断できず、最初は断りました。私には裏方が向いていると思っていたからです。

背中を押してくれたのは、創業者のジェームス・フリーマンをはじめ、日本やアメリカの仲間たちでした。「あなた自身の成長のためにもいいチャンスだ。100%サポートするし、もしやってみて合わないと思えばそう言えばいい」と。そしていざ代表に就いてみると、最初は肩書の大きさに重圧を感じました。もっとリーダーらしく振る舞わなくてはと考えたり、うまくいかないことをすべて自分の責任であると感じてしまったり。眠れない日々もありました。そんな時にジェームスから「経営はマラソンなのだから、そんなに全速力で走らなくていい。できないことはできないと言っていいし、周りにも頼って」と声をかけられ、自分ひとりで背負っているわけじゃないんだと気持ちが楽になりました。私はバリスタのようにはうまくコーヒーを淹れられないし、ロースターの仕事も私にはできません。その中で私の役割は、オーケストラの指揮者のように、みながそれぞれの力を十分に発揮できるような環境や空間を整えること。上下という関係ではないのだと今は理解しています。

ブルーボトルコーヒーではバリスタが1杯ずつ丁寧にハンドドリップでコーヒーを淹れる。手間ひまをかけてもおいしいコーヒーを提供するという創業者の信念や世界観を守りながら、日本のマーケットに合わせて展開していくことが井川さんの役目。「日米の法律や習慣の違いを埋めていく必要があり、過去2社での経験が活きています」

~28歳の働く女性へのメッセージ~ 年齢や肩書で「こうあるべき」と型にはめず
自分らしさに自信を持ってチャレンジを

キャリアプランという意味では私はまったくの無計画派で、その時どきに心ひかれることに向き合ってきたら、今この場所にいたというのが実感です。過去4度の転職では、決断に迷ったことはありません。極端に言えば「明日仕事を失ってもいい」と思っているので、怖くないのです。今この瞬間にできる100%を出し切って、後悔がなければそれでいい。日々の仕事に全力で向き合うことが、私にとっての覚悟であり原動力かもしれません。

最近は職場でもプライベートでも、キャリアについての相談を受けることが増えてきました。話を聞いていると、「こうあるべき」と自分で結論づけてしまっている人が多いように感じます。でも、それは別の誰かの考え方であって、その人自身のものではないはず。自分を型にはめるのではなく、本当にやりたいことは何なのか、どうなりたいのか、不安の原因はどこにあるのかを突き詰めて考えていくしかないと思います。また、28歳前後はリーダー的なポジションを任される機会が次第に増えてくる年代だと思いますが、かつての私のように「自分には向いていない」と決めつけてしまうのはもったいない。新しい挑戦に対して少しでもワクワクするものを感じるのであれば、たとえ自信が皆無でも、やってみたほうがいいと思います。そもそも「リーダーは完璧であるべき」というのも型にはまった考え方。私は周りに「これ教えて」「助けて」と言うことはしょっちゅうですし、人それぞれいろんなリーダーシップがあっていいはずです。

私は20代の頃、年齢より若く見られたくない、ちゃんと見られたいという思いから、仕事の大事な場では必ず髪をまとめてパンツ姿と決めていました。でも、いつしかそれもばかばかしくなってしまって。自分がその場所でやるべき責任や役割をきちんと果たしていれば、分かってくれる人は絶対にいると気づいたからです。自分らしさに自信を持てばいいんだと思えるようになりました。今の私は肩書や「こうあるべき」にしばられず、自由になれたからこそ、恐れずにチャレンジができるのだと思います。

社会人のスタート時から一貫して新規事業の立ち上げに関わる。「小さなものを大きくすることが好きなんです。今はブルーボトルコーヒーの会社とブランドを大きくしていくことが一番のゴールですが、結局この先もずっと、新たな場所で新たな挑戦をしている気がします」

今、28歳の自分にアドバイスをするとしたら?

28歳のころは、自分のやっていることがどこにつながっていくのか、全然分からず手探りでした。でも今になってみると、すべての経験は現在に活きていて、無駄なことは一つもなかったと思えます。だから28歳の私には、自分を信じてそのまま進んでほしいですね。先が分からないのは今の私も同じですが、不安はありません。なぜなら、前も後ろも見えなかった28歳の頃と違い、今は、たどってきた道にはすべて意味があったと分かるから。「やりたいことは全部かなえたい」という欲張りなところは、あの頃も今も変わっていないですね。

編集後記

井川さんが醸し出す柔和で優しい雰囲気は、いわゆる“女性経営者”のイメージからは遠く、ご本人も以前はそれがコンプレックスだったそう。「今は人からどう思われようと気にしません」と笑う姿からは、その奥にあるしなやかな強さが伝わります。公私にわたって、周りから相談相手として頼られることが多いというのも納得です。

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