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Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜

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掲載日:2015年11月23日
更新日:2020年8月24日

自らの経験をきっかけに『「育休世代」のジレンマ』を執筆
「発信する人」として多彩な活動を続けていく

2014年9月に出版され、働く女性を中心に広く反響を呼んだ書籍『「育休世代」のジレンマ』。著者の中野円佳さんは、勤めていた新聞社での育児休業中に大学院に通い、書き上げた修士論文をもとにこの本を発表しました。28歳の1年間はちょうど、前年に生まれたばかりのお子さんを育てながら論文執筆に打ち込んでいた時期だと言います。そのチャレンジへ自身を突き動かしたものは何だったのでしょうか。そして15年春に転職を経て、新たなステージへ踏み出した経緯について、お話を伺いました。

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女性活用ジャーナリスト/研究者(株式会社チェンジウェーブ)中野 円佳さん

1984年生まれ。東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。金融機関を中心とする大手企業の財務や経営、厚生労働政策などの取材を担当。同社で産休・育休を取得し、その期間、子育てと並行して立命館大学大学院先端総合学術研究科で学ぶ。日本経済新聞社復職後の2014年9月、同科に提出した修士論文をもとに『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)を出版。15年4月より企業変革パートナーの株式会社チェンジウェーブに参画。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。現在、3歳と0歳の二児の母。

~28歳まで~ 働くママのパイオニアを目指す気持ちが一転
妊娠後の異動で“モヤモヤしたもの”を抱えた

2014年に『「育休世代」のジレンマ』を出版しました。タイトルの「育休世代」という言葉は私の造語で、育児休業などの両立支援の制度が整ってきた00年代以降に就職し、出産した世代を指しています。07年に大学を卒業し、新聞社に記者として入社した私自身も、まさに育休世代です。

学生時代から「発信する人になりたい」「ものを書くことで社会の問題を少しでも解決に近づけられるようなことをしたい」と考えていました。大学院に進んで研究者になる道も考えたのですが、教育社会学の分野を専攻してきたこともあり、実際に社会や企業の中に身を置く経験をしたいと思って就職を選択しました。経済紙の記者職なら、自分がいる会社のことだけでなく、取材を通じてさまざまな業界や企業を見られると思ったことも、日経新聞を選んだ理由の一つです。

入社3年目、経済部に在籍していた25歳のときに結婚し、しばらくして子どもを持つことを考えるようになりました。それまで同じ部署で育休を取得した事例はゼロ。経験談を集めようと子育てをしながら記者を続けていた女性の先輩に話を聞きに行き、「どういうタイミングで産んだんですか?」と尋ねたところ、「タイミングなんて計っていたら産めないよ」と背中を押されて子どもを持つことを決断しました。幸いにも、当時所属していたチームの上司は理解があり、私自身も記者としてある程度担当分野のポイントがつかめてきたこともあって、「この環境でなら産めるかも」と思えたことも大きかったですね。そして26歳の時に妊娠が分かりました。

“モヤモヤしたもの”を解消するため、育休中に大学院で学ぶことを決意

ところがちょうど同じ時期に部署の異動が重なり、私は経済部を離れることに。「子どもを育てながらでもニュース部門で活躍できるというパイオニアの1人になるんだ」という意気込みがくじかれ、それまで計画していたキャリアの展望を描けなくなってしまった気がして、モヤモヤとしたものを抱えるようになりました。「この満たされなさを、きちんと言語化したい」という思いが募り、会社の外の世界に目を向け始めたところ、社会学者の上野千鶴子さんがNPOで開いているゼミがあると知り、参加。そこで上野さんがおっしゃった「来年度から立命館の大学院で教えるので、よりアカデミックにやりたい人はそちらへどうぞ」という一言が、育休中に大学院で学ぶという選択につながったのです。京都の立命館に入試を受けに行ったのは、新幹線に乗れるぎりぎりの妊娠9カ月のとき。そして第一子を出産した12年4月に大学院に入学しました。

出産した同じ月に、大学院生としてもスタートすることに。「育児と大学院の両立ができる確証は何もなかったけれど、とりあえずやってみようと。もともと、長期的な目標を立てて計画的に進むよりも、目の前の興味をひかれるものに全力で打ち込むタイプです」

~28歳から今~ 成果への不安から逃げ腰になった復職半年後
自らが研究した「ジレンマ」に陥ることに

『「育休世代」のジレンマ』で主題として取り上げた「やりがいを持ってバリバリ働く女性ほど、出産を機に仕事を辞めてしまう」という傾向は、論文を書き始める前からすでに仮説として私の中にありました。調査研究を進める中でそれに加えて見えてきたのは、出産後に会社に残ることを選択した女性たちも、多くがキャリアを思うように築けないことにもがき、仕事へのモチベーションや上昇志向を抑え込んでいる状態、つまり「意欲の冷却」を強いられている現状でした。また、バリキャリの女性ほど夫もハードな仕事に就いているケースが多く、それが仕事と育児の両立を難しくし、女性が仕事を辞める遠因になっていることも見えてきました。

仕事に復帰したのは、論文を9割方書き終えた修士2年目の半ば。復帰先は、妊娠前のように経済の最新ニュースを伝える部署ではなく、経済の動きを記事で解説する部署です。専門家に会う機会も多く、自分の関心のあるテーマについて経済学的見地から意見をもらえることが非常に刺激になったこともあり、しばらくは充実した日々を送っていました。それに、15万字もの論文に取り組んだ後なので、数千百字程度の記事を書くことはまったく苦にならない。ダイバーシティ、働き方、女性活躍などのテーマでさまざまな企画を提案し、紙面化していきました。自分の裁量で仕事を進めやすかったこともあり、毎日17時に退社する生活を続けながら、質の高い記事を書くことにモチベーションを覚えて仕事に励んでいました。

再びモヤモヤとしたものを感じ始めたのは、復帰から半年がたったころです。得意な分野について書く分には何の問題もないけれど、苦手な分野にチャレンジしようとすると、予習・取材・執筆のすべてにいつも以上に時間を割かれることになり、時間が全然足りない。さらに、この先もし別の部署に異動にでもなれば、周りが誰一人私のことを知らない環境の中で、限られた時間内に成果を出すなんてとてもできそうにない。そんな不安感から、苦手分野にチャレンジしたり、新しい環境に飛び込んだりすることに対して、いつの間にか逃げ腰になっている自分に気づきました。私自身が、自分が分析してきた「ジレンマ」に陥ってしまっていたのです。

結果的に、復帰から1年半後に退職を選んだのですが、理由の一つは、書籍への反響が予想以上に大きく、新聞社に在籍したままでは、メディアの取材や講演の依頼をなかなか受けられなかったこと。もう一つは、転職先となる企業変革パートナーのチェンジウェーブという会社からお誘いを受けたことです。モヤモヤしていた時期にそれら二つの要因が重なったことで、思い切って新しいキャリアステージに踏み出しました。

実は転職する直前に第二子の妊娠が判明しました。半年後には産休に入ることになる私を、それでも温かく迎え入れてもらえたことで、「ここでしっかり貢献したい」という気持ちがいっそう強くなりました

~28歳の働く女性へのメッセージ~ 将来のライフイベントに備えるのなら
「実際に起こってから考える」くらいのスタンスで

現在はチェンジウェーブで働きながら、ジャーナリスト・研究者として個人でも執筆活動などを行っています。子どもが寝た後や週末もパソコンに向かっていることが多く、ワーク・ライフ・バランスという点では記者時代より悪化しているかもしれません。でも、仕事も個人活動も育児も、どれも私にとって大きなやりがいのあるもの。だからこそ、「どうしてもこの仕事はやり遂げたい」「ここは子ども優先でいこう」とその都度優先順位を判断しながら、積極的にチャレンジを重ねることができているのだと思います。

講演などで20代の働く女性たちと話す機会があるのですが、結婚や出産などのライフイベントについて、起こる前から過度に心配している人が多い印象を受けます。私自身もそうだったので、不安な気持ちはとてもよく分かるのですが、「実際に起こってから考える」くらいのスタンスで良いのではないかと思っています。もし先々に備えて何か準備をしておきたいと考えるのであれば、例えば、実績を上げて社内や取引先から信頼を得ておくなど、「アクセルを踏む」という形での準備をぜひおすすめしたいですね。逆に、仕事のペースを緩める方向で準備をしてしまうと、いつやって来るか分からないライフイベントを待って延々とブレーキを踏み続けることになり、その過程で仕事のやりがいまで見失ってしまうのではないでしょうか。

両立への不安を感じているのなら、社内や社外のワーキングマザーたちに積極的に話を聞きに行くのも良いと思います。完璧なロールモデルを見つけようとする必要はありません。そもそも、キャリアの考え方や家庭の状況は一人ひとり異なるので、誰かとまったく同じキャリアを歩むというのはありえないことです。いろいろな人に会い、キャリアのヒントや働き方の工夫などを集める中で、「この人のこういう部分は私も実践できそうだな」と思えるものが出てくるはずです。そんな、断片的なロールモデルを多く持ちながら、自分らしいキャリアを柔軟に描いていってほしいと思います。

「育休中に大学院に通うなんてすごい決断ですね」と言われることがあるのですが、その真っただ中にいたときは「とりあえず入学金を払ってみよう」「この授業はどうしよう」と、目の前の課題をクリアしていくことに精一杯。そんな小さな一歩の積み重ねが、修士論文を形にした『「育休世代」のジレンマ』という成果に結びつきました

今、28歳の自分にアドバイスをするとしたら?

子どもを保育園に預けて必死で論文を書いていた28歳の1年間は、今までの人生で一番頑張った期間かもしれません。アドバイスよりも、「よく頑張ったね」と伝えたいですね。同期の院生はみな京都にいたので、苦労を分かち合う仲間もいない中、一人東京で奮闘する毎日。本当に苦しかったというのが本音です。それでも「これを書きたい」というテーマが自分の中に明確にあり、そこから生まれる執念は今振り返っても異様なほど(笑)。あのときの頑張りがあったから、本を出すことができ、今につながったのだと改めて思います。

編集後記

「チェンジウェーブでの経験も踏まえ、ゆくゆくはそれを何かの形にまとめて、より多くの方々に見てもらえるようにしたい」と語ってくださった中野さん。ジャーナリスト、研究者、ママコミュニティ主宰者など多彩な顔を持ち、そのすべてに、学生時代から変わらない「発信する人でありたい」という思いが貫かれていることを感じました。

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