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Age28 〜28歳から、今の私につながるキャリア〜

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掲載日:2016年9月5日
更新日:2020年8月24日

28歳の時の転職でキャリアの軸が定まった
その後も迷わず進めたのは、あの決断があったから

2013年にエステー株式会社の社長に就任した鈴木貴子さん。創業者である鈴木誠一氏を父に持つ鈴木さんですが、執行役として2010年にエステーに入社するまで家業を継ぐことは想像すらせず、新卒で自動車メーカーに就職し、その後は、外資系のスキンケアやファッションブランドのグローバル・マーケティングの分野で活躍してきました。日用品業界というまったく異なる世界に飛び込んだように見えますが、実はそこにキャリアを貫く一本の軸がありました。

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エステー株式会社 取締役 兼 代表執行役社長鈴木 貴子さん

1962年東京都生まれ。84年上智大学外国語学部イスパニア語学科を卒業後、日産自動車株式会社に入社。海外事業本部のセールス&マーケティング部門に所属し、スペイン語のスキルを活かして中南米エリアのマーケティング業務を担当する。その後、LVJ(ルイ・ヴィトン・ジャパン)グループ株式会社などを経て、2010年1月にエステー株式会社に入社。さまざまな部署で経験を積みながら、商品のデザイン改革を手がける。同年4月に執行役、11年6月に取締役に就任。13年4月より取締役 兼 代表執行役社長。

~28歳の時~ 希望通りの仕事に就いたはずが次第に募った葛藤
女性としての強みを活かしたいと転職を決意

大学ではスペイン語を専攻しました。私が所属していた学科には当時、日産自動車への就職枠があり、スペイン語を活かした仕事ができるという点に惹かれて応募。幸いにも選考を通り、入社後に配属された海外事業本部では、希望していた通り、語学を活かして中南米エリアに向けた輸出営業活動に携わりました。早い段階から海外出張の機会も多くあり、グローバルに働くという学生時代からの夢もかなって、充実感を覚えていました。

徐々に迷いが生じたのは20代後半に入ってからです。自動車という商品は上流から下流までの製造プロセスが非常に複雑で、そのすべてを理解することが私には難しく、どのようなマーケティング戦略を立てるべきかいつも頭を悩ませていました。加えて私自身が、クルマ好きと言うにはほど遠く、ユーザーがどんな気持ちで自動車を選ぶのか、想像することも難しかったのです。商品のこともユーザーのことも十分に理解できず、自分の女性としての強みも活かせない。その状況をもどかしく感じました。マーケットに対して自分が直接何か働きかけることで、じかに手ごたえを得られるような仕事をしたい、という思いが募っていきました。

自身の経験を活かしたマーケティングで仕事の楽しさを実感

先のことは何も決まっていないまま、とにかく行動を起こそうと退職届を出したのが28歳の時。ほどなく、たまたま求人が出ていた外資系スキンケアブランドの日本法人にマーケティングスタッフとして採用されました。立ち上げから日の浅い会社とあって、個々人に与えられた裁量は大きく、私は販促から広報宣伝、百貨店での売り場づくり、顧客へのダイレクトマーケティングまで、本当に何でもやりましたね。スキンケア商品はリピート客が多く、ダイレクトマーケティングを行うと、確実に手ごたえがある。それに私自身がターゲットユーザーなので、自分自身の経験から仮説を立て、戦略を組むことができたのです。「仕事って本当に楽しい!」「仕事で自分らしさを発揮できるんだ」と喜びをかみしめました。

その後も幾度か転職を経験していますが、この28歳での最初の転職は私にとって一番大きな出来事で、その後のキャリアや人生に影響を与えました。当時抱えていたジレンマを解消するために転職という道を選んだことで、「女性をターゲットにした商品で、長く愛されるブランドを構築したい」という自分の中の軸が定まったのです。その軸は今に至るまでぶれていません。

「幼いころから父に『子どもを自分の会社に入れるつもりはない』と言われて育ち、社会人になる時もエステーは選択肢としてまったく考えませんでした。父からは常々『女性も何かしら自分の身を立てるための力を身につけるべきだ』とも言われてきました」

~28歳から今~ 中から変化を起こすことを目指しエステーへ
より親しみやすく、信頼され、愛されるブランドにしたい

30代、40代は、転職を重ねながら複数の外資系ファッションブランドでマーケティングやブランディングに携わりました。特に明確なキャリアビジョンがあったわけではなく、ましてや、出世したいとか、組織のトップに立ちたいという考えを持ったことはありません。転職のたびに私が基準にしたのは、「自分の成長につながりそうか」「この仕事を通して何か世の中に役立ったり、誰かを喜ばせたりできるか」という2点。それらを常に自問し、Yesだと思える道を選択してきたのです。どの会社でも、毎日へとへとになるほど多忙でしたが、仕事自体がとても楽しく、その楽しさを推進力にして目の前の仕事にがむしゃらに打ち込んできました。

エステーに関わるようになったのは2009年、当時社長だった叔父の鈴木喬・現会長から、「商品の“デザイン革命”をしたいので手伝ってほしい」と声を掛けられたことがきっかけです。そこで私は自らデザインのコンサルティング会社を立ち上げ、最初の1年は外部からエステーの仕事に携わりました。当時のエステーの商品は、とにかく店頭で目立つことを考え、パッケージには原色や大きな文字が踊っているものが多く、私にはまるでスポーツ新聞の見出しのように思えたんです。買う人も使う人も女性が多い商品なのだから、もっと使う人の気持ちに寄り添ったデザインにできるはず。その思いを起点に、デザイン改革に着手しました。

改革を進めていく過程で、課題はデザインにとどまらず、香りの質や配合ももっと深掘りできるはずだと考えるようになりました。ただ、私がいくら「こうすればもっと良くなる」と訴えても、社外のコンサルタントの立場ではどうしても限界があったのです。自分自身が中に入らなければ組織を動かすことは難しいと実感し、叔父の勧めもあって、翌2010年にエステーに入社しました。「女性をターゲットにした商品で、長く愛されるブランドを築く」という自分の軸に沿った決断だったので、それまでとまったく違う分野に飛び込むことに迷いはありませんでした。

現在もデザインの改革や、組織の改革を続けています。一つ心に決めているのは、物事を短い期間で一気に変えようとしないこと。自分一人でできることは限られています。社員と誠実にコミュニケーションを重ね、課題や成果を逐一共有しながら、焦らず着実に進めていくことを意識しています。そして経営者の立場となった今も、ユーザー側の視点を絶対に忘れないことを自分に言い聞かせています。私がこれまで長く携わってきたファッションブランドとはまた違った方向性で、エステーのブランドをより親しみやすく、信頼され、愛される存在として確立していきたい。そう強く思っています。

シマウマのぬいぐるみが不思議と溶け込む社長室。机の上の砂時計はタイムマネジメントの大切なツール。「話を手短にまとめてもらうために、あえて相手の見えるところに置くこともあります(笑)」

~28歳の働く女性へのメッセージ~ 立場が人をおのずと成長させる
不安な気持ちを封じ込めて、まずはその環境に身を置いてみて

エステーの一員になり、立場が上がっていく過程で、仕事の面白さは広がってきたと感じます。最初は商品周りの限られた部分だけでの関わりでしたが、役員になってさまざまな部門を経験する中で視野が広がり、組織上や経営上の課題が見えてきました。解決により多くの時間を要する難しい課題ですが、その分、取り組みに対して結果が出始めると、それが何よりのモチベーションになります。ポジションが上がり、責任が大きくなっていくことと引き換えに、仕事を通して得られる喜びや達成感も、比例して大きくなっていくことを実感しています。

私自身の経験から伝えたいのは、「立場が人をつくる」ということです。管理職を打診されて、自信がないからとためらう女性は多いのですが、チャンスが与えられたらまずは引き受けてほしい。新しいことに挑戦する不安はよく分かりますし、私もステップアップのたびに「自分に務まるだろうか」といつも思ってきました。それでも、不安な気持ちをいったん封じ込めて「できます、やります」と答え、とにかくその環境に身を置いてしまう。そうすれば、たとえ最初は苦労や失敗が続いても、やがてそれを克服し、無理だと感じていたことが自分にとって当たり前のことになっていくはずです。振り返って自分自身の成長を確かに実感することができ、自分も周りもハッピーになれる。これほど素晴らしいことはありません。

「一生かけて自分がやりたい」と思えるものを見つけてほしい

自分にとってのキャリアの軸を見つけることも大切だと思います。それは、業種や職種の枠に縛られるものではありません。私自身、これまで関わってきたファッションブランド業界でも、そしてエステーに移った今も、同じ軸に沿って迷わず進み続けることができています。一生をかけて自分がやりたいと思えるものを、まずは見つけること。そして見つかったならば、どんな小さなチャンスも逃すことなく、「立場が人をつくる」と信じて挑戦を続けてほしいと思います。

エステーは現在、取締役9名中3名が女性。「育児と両立しながら管理職で活躍する女性ももっと増えてほしい。そのために必要な仕組みや環境の整備に会社としても取り組んでいきたいと考えています」

今、28歳の自分にアドバイスをするとしたら?

初めての転職に臨んだ28歳は、人生で一番迷っていた時期。自分に自信が持てず、この先どうなっていくのかもまったく分かりませんでした。あのころの私に今伝えたいのは「人って仕事を通じて限りなく成長できるんだよ!」というひと言です。28歳の私は、自分には限界があると思い込んでいたし、まさか将来社長になるなんて夢にも思いませんでした。人の成長に限界なんてない。当時それを確信できていたなら、もっと自分に自信を持って、恐れず挑戦ができたのかもしれません。自分を信じることの大切さを伝えたいですね。

編集後記

清潔感のある白のスーツがとてもお似合いの鈴木さん。最初の転職で「女性としての強みを活かした仕事をしよう」と心に決め、経営者となった今も、女性の視点を大切に仕事に臨んでいます。「物事は考え方ひとつで変わる」と、悔しさや不安もすべて前に進む力に転換してきたそう。柔和な物腰の奥に、本当の強さを感じました。

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