Q. iDeCo加入中に転職した場合、手続きが必要ですか?必要な場合は何をしたらいいですか?
転職を検討していますが、iDeCoに加入している場合は手続きが必要だと聞きました。どのような手続きが必要ですか? 手続きを行わないとどうなりますか?(36歳 男性)
A.手続きは必要です。iDeCoに引き続き加入する、企業型DCへ移換するなど方法が選べます。退職後、決められた期日までに手続きしなければ、自動的に国民年金基金連合会に移換されます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で決めた額を積み立てて年金資産を運用し、65歳以降に受け取ることができる制度です。運用した資産は公的年金(厚生年金・国民年金)にプラスされた状態で受け取れるため「もう一つの年金」ともいわれています。
iDeCo加入中に転職した場合、適切な手続きを行う必要があります。手続きを行わないと、自動的に国民年金基金連合会に資産が移換されてしまい、資産の運用が停止される、管理手数料が請求されるなどのデメリットが生じてしまうので、注意してください。このような事態になる前に、できるだけ早めに手続きを行いましょう。
手続き内容は、次のように分けられます。
iDeCoは老後の資産形成に大きな役割を果たす制度ですが、転職時には適切な対応が必要です。適切な対応を行わなければ、iDeCoの加入資格や掛金の拠出限度額が変わる可能性もあるため注意が必要です。以下で、それぞれの対応方法を解説します。
iDeCo加入者が転職する場合の手続き
転職時のiDeCo手続きには、主に3つの選択肢があります。1つ目は企業型確定拠出年金(以下、「企業型DC」)に移換する、2つ目は企業型DCに移管せずiDeCoを継続する方法、3つ目は確定給付企業年金(DB)に移換する方法です。
どれを選ぶかによって必要な手続きが変わってきますので、以下でそれぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。iDeCoと企業型DCの違いについても解説しているため、ぜひご参考になさってください。
企業型確定拠出年金に移換
1つ目は、企業型確定拠出年金(以下、「企業型DC」)に移換する場合です。転職先に企業型DCがある場合、iDeCoの資産を移換することができます。企業型DCとは、企業が掛金を毎月積み立て(拠出)し、従業員(加入者)が自ら年金資産の運用を行う制度のことです。
企業型DCへ移換する場合は、iDeCoの加入者資格を喪失することになるため、以下の手続きが必要です。
- 「加入者資格喪失届(K-015)」を運営管理機関に提出
- iDeCoの資産を企業型DCへ移す手続き(転職先の担当者に確認)
添付書類が必要な場合もありますので、転職先の担当者へ事前に確認しておくとよいでしょう。
企業型DCに移管せずiDeCoを継続
2つ目は、企業型DCに移管せずiDeCoを継続した場合です。iDeCoの加入者として、継続して掛金を拠出することができます。また、転職先に企業型DCがあるかどうかで、選択肢が増えます。
- iDeCoに継続加入
- iDeCoと企業型DCを併用
いずれの場合も「個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者の国民年金に係る被保険者種別」や「登録事業所の変更手続き」が必要です。また、国民年金の被保険者種別が変わる場合は、別途で必要書類の提出も求められます。
確定給付企業年金に移換
転職先に確定給付企業年金(以下、「DB」)がある場合、規約でiDeCoからの移換が認められていれば、iDeCoからDBへの移換が可能です。ただし、iDeCoの掛金拠出の限度額が変更される可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
ちなみに、DBとは、従業員が受け取る「給付額」があらかじめ約束されている企業年金制度のことです。
もちろんDBに移換せずに、iDeCoに継続加入することも可能です。
iDeCoと企業型DCの違いは?
iDeCoと企業型DCには、加入対象者や掛金、手続きの主体などに違いがあります。双方の違いや、iDeCoの加入対象者について表でまとめたので、ご参考にしてください。
【iDeCoと企業型DCの違い】
項目 | iDeCo | 企業型DC |
---|---|---|
加入対象者 | 国民年金被保険者(次の表で詳しく解説しています) | 企業型DCを導入している企業の従業員 |
加入手続き | 個人で行う | 企業が行う |
掛金の拠出限度額 |
会社員:月額23,000円 ただし企業年金に加入している場合は月額12,000円(※)、企業DCと併用している場合は月額20,000円 2024年12月から12,000円→20,000円に。 公務員:月額12,000円 自営業者やその家族:月額68,000円 専業主婦(夫):月額23,000円 任意加入被保険者:68,000円 |
月額55,000円(他の企業年金等に加入している場合は27,500円) |
掛金の負担 | 個人が負担 | 企業が負担 |
掛金の支払い方法 |
個人の給与天引きまたは口座振替 (企業がマッチング拠出制度を採用している場合、個人の負担分が給与から天引きされる) |
企業の口座振替 |
積立期間 | 65歳まで | 70歳まで(規定により異なる) |
運用商品の選択 | 個人で金融機関(運営管理機関)が提供している運用商品から選択できる | 企業が提示した運用商品から個人が選択 |
税制優遇 | 全額所得控除の対象になる | 企業がマッチング拠出制度を採用している場合、個人の掛金負担分は全額所得控除の対象になる |
次に、iDeCoの加入対象者をさらに詳しく見てみましょう。iDeCoは基本的に、国民年金の被保険者であれば加入可能です。なお、企業や公的機関に勤めている人は第2号被保険者に該当します。(第1号被保険者は自営業や専業主婦(夫)が該当)
【iDeCoの加入対象者の詳細】
国民年金の 被保険者区分 |
加入対象者 |
---|---|
第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満の自営業者・その家族・専業主婦(夫)・ フリーランス・学生など |
第2号被保険者 | 会社員・公務員など |
第3号被保険者 | 第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の専業主婦(夫)など |
任意加入被保険者 |
・60歳以上65歳未満で、 国民年金保険料の納付済期間が480月に達していない人 ・20歳以上65歳未満の日本国籍を有する海外居住者で、国民年金保険料の納付済期間が480月に達していない人 |
転職後に必要な手続きを行わなかった場合
iDeCoの資産移換手続きを行わずに6カ月が経過した場合、その資産は国民年金基金連合会(特定運営管理機関)に自動的に移換されてしまいます。自動移換された際、以下のようなデメリットが生じます。
- 資産が運用されない
- 管理手数料を請求される
- 自動移換中は老齢給付金の受給要件に影響が出る可能性がある
自動移換されてしまうと積み立てた資産が現金としての管理になるため、加入者が資産運用の指図ができず、積み立てた掛金を増やすことができなくなってしまいます。また、運用の指図ができなくなっても管理手数料を請求されてしまいます。管理手数料は、特定運営管理機関と国民年金基金連合会からの2カ所から請求されます。管理手数料の具体的な金額は下記のとおりです。
請求項目 | 特定運営管理機関に支払う管理手数料 | 国民年金基金連合会に支払う管理手数料 |
---|---|---|
自動移換されるときの手数料 | 3,300円 | 1,048円 |
自動移換中の管理手数料 | 52円/月(自動移換して4カ月以降からの請求) | ー |
iDeCo・企業型DC・確定給付企業年金への資産移換 | 1,100円(移換先の機関により手数料が別途かかる場合もある) | 2,829円(iDeCoへの資産移換のときのみ請求) |
脱退一時金・死亡一時金の受け取り | 4,180円 | ー |
(引用元:iDeCo加入者で転職・退職された方へ)
さらに、自動移換中は通算加入者等期間の計算に含まれないため、老齢給付金の受給開始年齢が遅くなる可能性があります。将来の資産形成の計画に悪い影響を与えかねないため、必ず期限内に手続きを行いましょう。
転職後のiDeCo手続きは面倒?
iDeCoの転職時の手続きは、一見すると複雑に感じるかもしれません。しかし、以下のポイントを押さえれば、それほど難しく感じないでしょう。
- 転職先の年金制度を確認する
- iDeCo継続か企業型DCへの移換かを決める
- 必要な書類を準備し、期限内に提出する
転職後も引き続きiDeCoに加入するのか、企業型DCに移換するのかで必要な書類は異なります。この記事で紹介した手続き内容を参考に、ご自身の状況によって適切な書類を選ぶようにしてください。上記のステップを一つずつ進めていけば、確実に手続きを完了させることができるでしょう。
iDeCoは、老後の資産形成に役立つ重要な制度です。転職の際にiDeCoも忘れずに手続きしましょう。
【監修】社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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