
転職Q&A(お金)#雇用保険
Q. 就業促進定着手当とは?どのような手当でしょうか?
転職後、再就職手当を受給しました。その際、就業促進定着手当の申請書類が届いたのですが、この手当は何ですか? 再就職手当とは違うのでしょうか? どんな手当なのか、分かりやすく教えてください。(28歳・女性)
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A.就業促進定着手当とは、6カ月間働いた再就職先の給与の1日分が、離職前の賃金の1日分の額よりも下がってしまった場合、一定の要件を満たすことで支給される手当です。
就業促進定着手当とは、雇用保険の「就職促進給付」に分類される手当のひとつです。混同されがちな「再就職手当」も、同じ就職促進給付に当てはまります。この手当は、失業給付を受け取る期間中に再就職し、6カ月以上働き続け、再就職先での6カ月間の賃金が離職前よりも低い場合に基本手当(失業手当)の支給残日数の40%を上限に支給されます。
【要点まとめ】
- 就業促進定着手当は、再就職手当を受給した方が、再就職先で6カ月以上継続して働き続け、再就職先での6カ月間の賃金が離職前よりも低い場合に基本手当(失業手当)の支給残日数の40%を上限に支給される手当
- 手当の目的は「再就職したけれど、前より給与が下がってしまったから辞めよう」といった早期退職を防ぎ、安定した就労の継続をサポートすること
- 手当の利用により、転職で給料が下がった場合でも、収入差による負担を一時的に軽減できる
【申請方法】
- ①必要書類の準備(就業促進定着手当支給申請書、雇用保険受給資格者証、就職日から6カ月間の賃金台帳または給与明細の写し、就職日から6カ月間の出勤簿またはタイムカードの写し)
- ②申請期間内に、再就職手当の支給申請を行ったハローワークに申請する(郵送・電子申請でも可)
- ③審査後、支給条件を満たすことが認められると、指定した口座に手当が振り込まれる
再就職手当との違い
再就職手当は、失業給付を受け取っている人が、早期に再就職を決めた際に支給される手当です。一方、就業促進定着手当は、再就職後に一定期間(通常6カ月)継続して働いた場合に、支給される手当を指します。再就職手当は「早期の再就職」を、就業促進定着手当は「再就職後の定着」を目的としています。
再就職手当は、以下2つの条件を満たした人が受給できます。
- 失業給付の受給期間が所定給付日数の1/3以上残っている段階で、新しい仕事が決まった
- 雇用期間が1年以上見込まれ、継続勤務が期待できる職場に再就職した
再就職手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
再就職手当とは?受給条件や手続き、もらえる金額の計算方法を解説<社労士監修>
就業促進定着手当の受給条件
就業促進定着手当は、再就職後に一定の期間働き続けたが、給与が下がってしまった人を支援するための手当です。手当を受け取ることで、転職後の経済的な負担を軽減し、安心して働き続けられます。以下では、具体的な受給条件を分かりやすく解説します。
再就職手当を受給している
就業促進定着手当を受給する最も基本的な前提条件が、再就職手当を受給していることです。再就職手当を受給していない場合、どれだけほかの条件を満たしていたとしても、就業促進定着手当の申請自体ができませんので注意が必要です。再就職手当の受給資格がない方は、就業促進定着手当も対象外となります。
就業促進定着手当の支給申請に関わる書類は、再就職手当の支給申請書に記載した住所宛てに郵送されることになっています。そのため、再就職手当の支給申請後に引っ越しなどで住所が変わった場合は、郵便局への転居届の提出が必要です。転居届を提出しておかないと、大切な申請書類が届かず、手当を受け取れない可能性がありますので、住所変更の際は忘れずに手続きを行いましょう。
再就職先で6カ月以上雇用されており、かつ雇用保険に加入している
再就職先での継続的な雇用も、支給条件のひとつです。具体的には、新しい職場で6カ月以上働き、雇用保険に加入している必要があります。この条件は、雇用の安定性を確認するためのものです。仮に6カ月を満たさずに退職した場合、受給資格は失われてしまいます。
再就職先で6カ月間支払われた賃金の1日分が、転職前と比べ低下している
もうひとつの条件は、再就職後の賃金が、転職前よりも低下していることです。具体的には、6カ月間の賃金が、転職前の賃金日額を下回っている必要があります。就業促進定着手当は、転職による賃金低下の影響を補う目的で支給されるため、賃金が上がっている場合は対象外となります。また、比較となる対象が、半年間の賃金の「総額」ではなく「1日当たりの金額」であることに、注意が必要です。
就業促進定着手当の計算方法
就業促進定着手当の支給額は、以下の計算方法で求められます。

まず、離職前の賃金日額を確認します。これは、雇用保険受給資格者証の「離職時賃金日額」に記載されています。例えば、離職前の月給が27万円であれば、賃金日額は9,000円(270,000円 ÷ 30日)です。ただし、賃金日額には上限額と下限額があります。
賃金日額の上限額と下限額は以下のとおりです。
上限額 | 離職時の年齢が30歳未満の方 | 14,130円 |
離職時の年齢が30歳以上45歳未満の方 | 15,690円 | |
離職時の年齢が45歳以上60歳未満の方 | 17,270円 | |
離職時の年齢が60歳以上65歳未満の方 | 16,490円 | |
下限額 | 全年齢共通 | 2,869円 |
(2025年4月時点)
下限額は、全年齢共通で2,869円です。上限額・下限額ともに、毎年8月1日以降に見直しが行われるため、申請前に最新情報を確認しましょう。「就業促進定着手当」が受けられます – 厚生労働省(令和6年8月1日から適応)
次に、再就職後6カ月間の総賃金を算出します。月給25万円で6カ月間働いた場合、総賃金は1,500,000円(250,000円 × 6カ月)です。その後、再就職後の賃金日額を計算します。月給制の場合、再就職後6カ月間の総賃金を180日で割ります。この例では、8,333円(1,500,000円 ÷ 180日)となります。
次に、賃金日額の差額を求めます。離職前の賃金日額9,000円から、再就職後の賃金日額8,333円を引くと、667円の差額が生じます。最後に、支給額を計算します。この差額667円に、再就職後6カ月間の賃金支払基礎日数(通常は180日)を掛け合わせます。結果、120,060円(667円 × 180日)が支給額となります。
ただし、支給額には上限があり、以下の計算式で求められます。

基本手当日額の上限額は、再就職手当と同額で、離職時の年齢によって異なります。具体的には、以下のとおりです。
- 離職時の年齢が60歳未満の方:6,395円
- 離職時の年齢が60歳以上65歳未満の方:5,170円
(毎年8月1日以降に改定される可能性があります。)
最終的な支給額は、計算結果と上限額を比較し、低いほうが適用されます。計算の結果が上限額を超えた場合は、上限額までの支給となります。
例えば、基本手当日額が5,699円、支給残日数が60日であれば、上限額は68,388円(5,699円 × 60日 × 20%)です。この場合、上限額の68,388円が支給されます。申請前に、上限額や支給条件を確認し、受給額を事前に把握しておくことが大切です。
条件などで分からないことがある場合は、ハローワークに確認しましょう。
就業促進定着手当に関するよくある疑問
就業促進定着手当は、再就職手当と比べ受給対象者が少ないため、疑問を持つ人が多い制度です。以下では、多くの人が疑問に思う2つのポイントについて、分かりやすく解説します。
再就職先で6カ月支払われた賃金に、賞与は含む?
就業促進定着手当の支給額を計算する際、賞与(ボーナス)は含まれません。計算の対象となるのは、6カ月間の月給や手当などの給与総額ですが、ボーナスは別枠とされており、支給額の計算には影響しません。
一方で、残業手当・通勤手当・家族手当などの、各種手当は含まれます。また、就業促進定着手当の計算対象となるのは、税金や社会保険料が差し引かれる前の総支給額(額面給与)です。控除後の手取り額ではなく、雇用契約上の基本給や、各種手当が算定の基準となる点に注意しましょう。
いつまでに申請すればいい?
申請期間は、再就職日から6カ月経過後の翌日から2カ月以内です。例えば、9月1日に再就職した場合、翌年の3月1日が6カ月経過日となり、3月2日から5月1日までの2カ月間が申請期間となります。
申請には再就職先に準備してもらう書類が必要なため、申請期限直前の手続きは避け、早めに手続きを進めましょう。企業側の書類準備には時間がかかる可能性があるため、申請開始可能日が近づいたら、あらかじめ必要書類を揃えておくことをおすすめします。申請時に必要な書類は、以下の4つです。
【自分で用意する書類】
- 就業促進定着手当支給申請書(再就職手当の支給決定通知書とともに、ハローワークから郵送される/再就職先に記入(証明)してもらう欄がある)
- 雇用保険受給資格者証
【会社側が用意する書類】
- 就職日から6カ月間の賃金台帳または給与明細の写し
- 就職日から6カ月間の出勤簿またはタイムカードの写し
(どちらも原本証明が必要)
就業促進定着手当の支給申請書は、再就職手当の支給申請書に記載した住所に郵送されます。再就職手当の支給申請後に、住所が変わった場合は、郵便局への転居届の提出が必要です。もし、申請書を紛失してしまった場合、ハローワークインターネットサービスからダウンロードできます。雇用保険受給資格者証についても、ハローワークの窓口や郵送での申請で再交付が可能ですが、就業促進定着手当の申請まで、なくさないように注意しましょう。
書類の準備が整ったら、再就職手当の支給申請を行ったハローワークに提出します。窓口での申請のほか、郵送での提出や、電子申請(e-Gov電子申請)も可能です。
また、申請期限を過ぎた場合でも、2年間の時効期間があるため、正当な理由があれば申請できるケースもあります。しかし、確実に受給するためには、早めの手続きを心がけましょう。
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【監修】弁護士法人 大知田中法律事務所(べんごしほうじんたいち たなかほうりつじむしょ)/代表 田中 芳太郎(たなか・よしたろう)
平成2年熊本県生まれ。東京大学卒。東京大学法科大学院在学中に司法試験に合格。司法修習を経て、弁護士法人大知田中法律事務所に勤務。令和7年4月より、同事務所代表となる。熊本県を中心に、多数の企業の顧問弁護士を務め、労務相談を受けている。
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