Q. 住宅手当とはどのような制度ですか?家賃補助との違いはなんですか?
転職先の企業で「住宅手当」があると説明を受けました。転職に伴って、通いやすい場所に引っ越しをしようと考えていたので、できれば利用したいのですが、具体的にはどのような制度なのでしょうか。家賃補助との違いや利用できる条件を知りたいです。(26歳/男性)
A.住宅手当とは従業員の住宅費を補助する目的で支給される手当のことです。
住宅手当とは、企業が従業員の生活費など経済的な負担の軽減を目的として行う福利厚生の一つで、従業員の住宅費を補助する手当です。自分が住む住居の家賃やローンを負担する従業員に対して、一律○万円支給、月額家賃の○%支給という形で補助するのが一般的です。
住宅手当は、厚生年金保険など加入が義務付けられている法定の福利厚生とは異なり、法定外の福利厚生です。そのため、住宅手当を導入する場合の規定や条件、支給額は企業によってさまざまです。
住宅手当と同様、従業員の住宅費を補助する制度に「家賃補助」がありますが、この名称を使用している場合、対象となる住居は賃貸のみです。住宅に関する手当としては「家賃補助」のほかにも、「住宅ローン補助」「社宅(社員寮)」「引っ越し手当」などがあります。それぞれの違いについて、見ていきましょう。
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家賃補助
家賃補助は、賃貸住宅に住む従業員に対して、家賃の一部または全額を補助する手当のことです。一律○万円のように固定金額を支給する企業もあれば、月額家賃の○%を支給する企業など、支給額はさまざま。月次給与の一部として支給することが多く、所得税法上の取り扱いは「課税」対象となります。
住宅ローン補助
住宅ローン補助は、一戸建てやマンションなどを自身で購入した従業員に対して、住宅ローンの一部または全額を補助する手当のことです。家賃補助と同様、支給額は企業によりさまざまです。月次給与の一部として支給することが多く、所得税法上の取り扱いは「課税」対象となります。
社宅(社員寮)・借り上げ住宅
社宅(社員寮)は、企業が従業員に住宅を貸し出す制度のことです。同様の制度に「借り上げ住宅」があり、こちらは企業が賃貸契約した住宅を従業員に貸し出します。
家賃補助や住宅ローン補助は「課税」対象ですが、社宅(社員寮)・借り上げ住宅では、使用する従業員から賃貸料相当額の50%以上の家賃を受け取っていれば、所得税法上の取り扱いは「非課税」とすることも可能です。
例として、基本給30万円の従業員が家賃補助を受ける場合と社宅に住む場合を比較してみましょう。例えば、家賃5万円のアパートに住み2万円の家賃補助を受ける場合、従業員の負担は3万円になります。月給は毎月32万円となり、家賃を支払う前のこの給与に基づいて所得税と社会保険料が計算されます。
一方、賃料相当額が5万円の社宅に家賃3万円で住むことができる場合、従業員の負担は同じ3万円ですが、基本給からこれが天引きされます。月給は27万円となり、これに基づいて所得税と社会保険料が計算されます。家賃補助を受ける場合と比較して、社宅に住む場合は課税対象額が抑えられます。また、社会保険の標準報酬月額は2等級低くなり、雇用保険料も減額されます。
引っ越し手当
引っ越し手当は、従業員が入社や転勤に際して、引っ越しが必要な場合に費用を補助する手当です。支給条件は、企業によってさまざまなため、就業規則などの規定を確認する必要があります。なお、引っ越し後の住宅は、オフィスから3駅以内や、通勤時間が30分以内などと条件が設けられている場合も多くあります。引っ越し手当支給の所得税法上の取り扱いは、入社や転勤といった業務遂行上、必要なものの引越し費用(実費)であれば「非課税」対象となります。
住宅手当・家賃補助の支給条件
住宅手当・家賃補助など住宅に関する手当は、法定外の福利厚生となるため、手当の有無はもちろん、支給する場合の条件や金額も企業に委ねられています。
一般的な支給条件としては、
- ➀通勤距離:「自宅からオフィスまでの通勤距離が○キロメートル以内の場合のみ支給」
- ➁世帯主であるかどうか:「物件の契約者であり、家賃を負担している場合のみ支給」
- ➂持ち家か賃貸かどうか
などがあります。なお、➁、➂の補足として、実家で世帯主である父母らと同居している場合は、住宅手当の支給対象にならず、物件の契約者かつ家賃を負担している場合にのみ支給されることが多いようです。
住宅手当の支給は減少傾向
住宅手当を支給する企業は減少傾向にあります。減少の要因としては、成果主義に移行し、成果に応じて給与に還元する企業が増加傾向であること、同一労働同一賃金の実現を目指す上で、すべての従業員に対して費用を平等に負担するのは難しく、正社員とそれ以外の雇用形態との待遇差をなくすため、廃止に至っているといったことが挙げられます。
これらの要因以外にも、新型コロナウイルスの流行をきっかけにテレワークが普及し、家賃だけでなく、通信費や水道光熱費などのより広いサポートが求められるようになったことも考えられるでしょう。支給の方法として、在宅勤務手当や給与の増額へ移行する企業も増えています。
このようにさまざまな事情から住宅手当の支給を廃止したり、ほかの手当へ移行したりする企業が増えています。今、住宅手当がある企業でも、将来的に住宅手当の支給がなくなったり、手当の形が変わったりする可能性もあることは気にしておきたいポイントです。
また、応募する企業を選ぶときは、「そもそも転職をしようと思った目的は達成できるのか」も忘れずに検討しましょう。
「仕事の選び方が分からない…」「希望の条件が多くて優先順位がつけられない…」という方は、以下の記事も参考にご覧ください。
【監修】社会保険労務士法人クラシコ/代表 柴垣 和也(しばがき・かずや)
昭和59年大阪生まれ。人材派遣会社で営業、所長(岡山・大阪)を歴任、新店舗の立ち上げも手がけるなど活躍。企業の抱える人事・労務面を土台から支援したいと社会保険労務士として開業登録。講演実績多数。
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